魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
今回頼まれたのは手紙の配達だけだから、これにてお使いは終了だ。
ラーシュは全身が透け始める前に、国王の前から飛び去った。
必要もないのに、人間界と魔界とを越境して移動する現場は見せないように心がけている。見せるのは、ここぞというときだけだ。要するに、そのときにより効果的に見えるよう、出し惜しみしているというわけだ。
(初めて王都と王宮も見ることもできましたし、今回はこれでよしとしましょう)
そうして待っていると、ラーシュは魔王城を出たときと同じ場所に戻された。
ラーシュは変化を解いたと同時に、魔王もまたラーシュが出発したときと同じように、玉座に座ったままなことに気がついた。
その表情はいつもと違って読めない。
むくれているのとも違う。まるで物思いにふけってでもいるような……
「魔王様?」
「ん? ああ……」
「ただいま戻りました」
「ああ」
「どうかされましたか?」
「『どうか』とは?」
「心ここにあらずといった感じですが?」
こんな魔王は侍従長でも見たことがない。