魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 侍従長は話題を逸らす作戦に出ることにした。

「あー、人間界といえば、そろそろ人間から何か依頼があってもいい頃かもしれませんね」

 魔王にとって、それは人間との唯一のつながりだ。

 しかし、最近ではそれが途絶えていた。

「どうだろうな。もう来ない気もする……」

 にも拘わらず、魔王はどうでもよさそうに言った。

 恐らく期待しないようにしているのだろう。

「……魔王様がいけなかったんですよ」

「あんな願い事をされたら仕方ないだろ。『隣国との戦争に勝ちたい』などと……魔王が人間界の覇権に関与したりは絶対にしない。かといって断ったりしたら、できないんだと思われて僕の沽券に関わる」

 だから戦争での勝利と引き換えに、『お前ら王族の首を差し出せ』と要求したのだった。

 拒否することは容易に想像ができた。

 案の定、交渉は成立しなかった。

 魔王は予想通りの展開にほっとしていた。
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