魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
鍋の中で煮詰まった薬はどろっとしていて、かき混ぜるのが大変になっていた。
小柄なイーダには少々ツラいけれど、腰にぐっと力を入れて、長くて重い木べらを両手でゆっくりとかき混ぜ始めた。
隣ではソフィーが別の鍋を同じようにかき混ぜていた。
イーダはソフィーに声をかけた。
「ねえ、ソフィー母さん?」
鍋を混ぜているメンバーの中に、シリエ母さんとノラ母さんもいたから、『母さん』ではなく『ソフィー母さん』と呼んだ。
もちろん誰とも血のつながりはない。
この集落では、子どもを引き取ってきた魔女が“その子どもの母親代わりをする”という決まりになっている。
そして、イーダの育ての母は一応ソフィーということになっている。
孤児院から要請を受けて、まだ赤子だったイーダに会いに行き、引き取ってきたのがソフィーだったそうだ。