魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「俺は王妃を迎える!」
「はあ?」
驚きすぎたのか、侍従長からは素っ頓狂な声が漏れた。
「何て顔をしてるんだ。お前もそれを期待してたじゃないか」
「ですが、対価はどうなったんですか? 突然王妃って何の話ですか? ……でも、一応お尋ねします。一体どなたを?」
「人間だ。名は知らん」
「はああ!?」
(王族全員の首じゃない。娘をひとり、それも殺すんじゃなくて嫁にほしいというだけだ。それに王族が相手なら、別に突拍子もない要求ってこともないだろう)
魔王は意気揚々と魔法を使い、まっさらな手紙とインクを出した。
「ええっと、どう書けばいいかな? 『特効薬を作る対価として、マルスドッテル王国国王の長女を……』」
「国王の長女なら、第一王女と呼んだほうがいいのでは?」
「そうか。じゃあ、『マルスドッテル王国の第一王女を我が妃に……』」
魔王が呟くのに反応して、インクはひとりでに手紙の上で模様となっていく。