魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
くちばしを突き出すと、国王は『ご苦労』とねぎらいのひと言をかけてから手紙を受け取った。
(偉くなったもんだな)
『ご苦労』などと、昔は言わなかった。若者らしい快活な笑顔で『ありがとう!』と言われたことを思い出す。
手紙を広げるときに眉間に現れた深いシワが、20年という歳月を感じさせた。
そして、ソフィーが経験したのとは全く違う種類であっても、サンディもまた苦労してきたであろうことも想像させられた。
手紙が開かれ魔法が発動すると、国王は顔を綻ばせたり、驚愕したり、青ざめたりした。
第一王女を嫁がせる準備ができたあとの手順は手紙に書かれているはずだ。
ラーシュの任務はこの時点で終了となる。
身体が透け始めていたが、手紙に食い入るようにしている国王も、その国王の表情を見つめている者たちもそのことに気づきはしなかった。
ラーシュは静かにその場を離れてから、完全に姿を消した。