魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
とはいえ、小さな集落だ。集団保育で育ったイーダは、どの母さんも自分の母親だと思っている。
それゆえに、イーダが『母さん』と呼ぶ魔女はこの場に3人もいるのだ。
ちなみに、薬を作っているメンバーの中でイーダは最年少で、母さんのほかは『姉さん』たちだ。
ソフィーは『痛たた……』と背中を反らしながら、顔をイーダに向けた
「呼んだ?」
「うん。聞きたいんだけど、前に斑紋死病が流行したときも、こんなふうに薬を作ったの?」
以前に斑紋死病が王都で流行ったのは、イーダが生まれる前のことだ。だからイーダは、その当時のことを知らない。
「あのときは作ってないわ」
「どうして?」
「だって、依頼がなかったもの。この領を出てしまえば、魔女なんて胡散臭い存在だと思われてるし、実際そう扱われるんだから。あの当時は領主様ならともかく、王室からの依頼なんて、それこそ魔女にしか頼めないような胡散臭い内容ばかりだったのよ」
イーダは『ああ』と笑った。