魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
3. 身代わりの花嫁

3.1

 イーダは馬車が停まったのを体で感じた。
 
 扉を閉めていた南京錠が乱暴に開けられた。

「降りろ」

 乗り心地が最悪な馬車に長時間座りっぱなしだったイーダは、即座に立ち上がることができなかった。

 確かめるように、ゆっくりと脚に力を入れた。

「さっさとしろ。この期に及んで拒否するつもりなら、今からでも魔女の集落を焼き払うことはできるんだ」

 このまま馬車で籠城するわけにもいかない。

 どれほど悔しくても逆らえないのだ。

 一方で馬車に揺られている間に、絶望するのにもすっかり飽きてしまっていた。

(そもそもこの人たちは私にお願いする立場じゃないの? 私がしくじって、魔王をダマそうとしてたことがバレたら、魔王はどう考えたって怒るでしょ? そうなったときに、私が『無理やり身代わりにさせられた』って全部白状したらどうなると?)

 その場面を妄想してみた。

(魔王のところへは大人しく行く。でも、生命を奪われるときには、王宮も巻き込んでやるんだから……)
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