魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

「化粧をしていますので、泣かれては困ります」

(このメイドの家族や知り合いに、魔女が作った斑紋死病の薬で助かった人はいないの?)

 イーダは喚き散らしたい気分になった。

 けれど、イーダは支度を済ませて魔王の元へ行かなければならない。

 そうしなければ、集落に火矢が放たれてしまう。

 髪を切られようとも、このメイドたちに第一王女に似せてもらうしかないのだ。

 イーダは風魔法を使って涙を乾かした。

 メイドたちが一瞬ひるんだ。

「魔王に第一王女殿下ではないと、せめてひと目でバレることのないようにお願いしますね」

「え、ええ……」

 それ以後はメイドたちの態度が丁寧になったので、少しだけ溜飲が下がった。

「お着替えをお願いいたします」

 立ち上がったイーダは、手伝われながら婚礼衣装に着替えた。

 最後にプラチナブロンドのウィッグをつけられたら、魔王の花嫁の出来上がりだった。
< 84 / 227 >

この作品をシェア

pagetop