魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
イーダが驚いたのは、それらしい出で立ちではあるものの、国王然とした威厳が感じられなかったからだ。
(『ノールブルク領出身』だとソフィー母さんからは聞いてたけど、確かに国王陛下っていうよりノールブルク領主とかのほうが似合いそう……)
「王女の身代わりをお願いするように命じたはずだが、脅したというのは本当なのか?」
「……申し訳ありません」
問われると、それまで威張っていた男は縮こまった。
しかしこの男が大人しくなるということは、目の前にいるのが国王で間違いはないのだろう。
集落の魔女たちが疲弊させられ、今まさにイーダが王女の身代わりをさせられようとしている場面──
にも拘らず、不思議なことに、イーダはこの諸悪の根源のような国王に対して怒りを覚えなかった。
(それだけこっちの男に向かった怒りが大きかったってことかもしれないけど)
「魔女殿、臣下の者が無礼を働いたようですまなかった」
国王はイーダに頭こそ下げなかったものの、謝罪の言葉を述べた。