魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
「第一王女が呼べば、魔王に聞こえるそうだ」
「ええっ? なら、身代わりの私では呼んでも聞こえないのでは……」
「あー……」
国王は高い天井を見上げた。
「まずはやるだけやってみてくれないか?」
「えええ……?」
(国王陛下まで雑! 魔界にいる魔王を『呼べ』って言われてもどうしたら……)
そのとき、使い魔召喚のときに現れたネズミもどきのことが不意に思い出された。
(姉さんが『魔界とかからヤバいのを召喚したんだ』とか何とかって……ということは、私が召喚するんじゃなくて召喚されるほうなんだけど、あんなふうに呼びかけてみれば魔王にも聞こえるかも……?)
とりあえず、ダメ元でやってみよう。
イーダは国王陛下の御前にも拘らず、ふざけた呪文を唱え始めた。
謁見の間にいた者たちは眉をひそめた。イーダが真剣に魔王を呼ぶつもりがないのではないかと疑ったのだ。
しかしその者たちの前から、イーダの姿は空気に溶けるように消えてしまった。
謁見の間全体が、狐につままれたかのような空気に包まれた。