魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない
魔王が呪文を唱えると、螺旋上の煙が白いドレスを形作った。
煙が薄くなるにつれ、次第に王女の輪郭がはっきりしていく。
待ち望んでいた王女がゆっくりと目を開け、魔王を見つめた。
「あ……」
その表情から、ひどく緊張しているのが伝わってくる。
魔王は自分の胸が高鳴るのを感じた。
(第一声は魔王らしく顔を引き締めてビシッと『王女よ、待っていたぞ』と言うつもりだったけど、笑顔で『ようこそ』のほうがいいんだろうか……えっ、えっ、頼りがいがありそうなのと親しみやすいのと、彼女はどっちがタイプなんだ?)
魔王が決めかねて黙ったままでいると、王女のほうからぎこちなくお辞儀をし始めた。ドレスのスカート部分をつまむ指先は震えている。
「魔王様、初めまして。私は、マルスドッテル王国第一王女のオリー……」
「わー、まだ名前は言わない!」
王女の自己紹介を慌てて遮った。