魔女ごときが魔王様をダマせるはずがない

 侍従長を広間に待たせ、魔王は王女を儀式の間へと案内した。

 扉を閉めるなり、さっそく呪文を唱え、床に婚姻の儀式のための魔法陣を描いた。

「わあ、私では詳しいことは分からないですけど、すごく高度で強力な魔法ですね」

 『魔王様ってすごいんだなー』と、王女は魔法陣をもの珍しそうに調べた。

(これって好印象?)

 魔王は顔がニヤけそうなところを、何とか引き戻した。

「こっちに来て」

 魔王は王女の手を引いて、魔法陣の上を踏んだ。

 ふたりが魔法陣上に完全に収まると、魔法陣は青白く光り始めた。

(どさくさ紛れに手を握ってしまったけど……よかった、王女は気にしてないみたいだな)

「お互いに名前を教え合えば、婚姻契約が結ばれるから」

「本当に名前だけでいいんですか? 誓いの言葉とかは?」

「そんなややこしいのは要らないよ。僕の名前はマティアス、というんだ」

「私は……」
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