好きって言わなくても分かるでしょ

第14話 日常のひととき

朔斗は目的の猫グッズを買い終えると、
満足したようで終始ご機嫌だった。

学校サボってまでここのペットショップに
来なくてはいけなかったのだろうかと
疑問が沸く。

朔斗の後ろを小走りで追いかける。

「あのさ、腹減ったな。」

「ああ、うん。
 そうだね。
 お弁当は?ある?」

「お弁当じゃなくて、
 バックには菓子パンはあるけど。」

「何、お弁当作ってもらってなかったの?」

「寝坊したから、
 適当に台所にあったパン持ってきただけ。
 そっちこそ寝坊したじゃんじゃないのかよ。」

「う、うん。
 何も入ってないよ。
 教科書だけ、あと化粧ポーチと…。」

 朔斗は呆れた顔をする。

「お前はそういうやつだ。
 寝坊したからお昼のことも
 考えられなかったんだな。」

「うん、そう。
 見て、財布も…。
 こんな感じ。」

 持っていた財布を逆さまにしてみた。
 何も音もしない。
 小銭もお札も入ってないようだ。

「どうやったら、そんな財布になる?!」

「えっとね、もらった小遣いとか
 長期休みの稼いだバイト代は
 家の中の部屋にあるよ。
 袋に入れて、使わないように
 丁寧に引き出しの奥の奥…。
 財布?時々、小銭は入れておくけど、
 今日は入ってないみたい!」

 ニコニコしながら、答える梨花に
 朔斗はため息をついた。

「確かにここまで来るのに俺のおごりとは
 言ったけど、もうすぐ成人になるだろう。
 もう少しお金の管理きちんとしようや。」

「何を言いますか!
 私たちはまだ16歳です!
 18歳まであと2年かかるんですよ!!
 高校生を堪能しなくていつ堪能するんですか。」

「んー?
 今しかないよな。」

「そう、今が大事。
 だから。おごって!
 私にランチ。」

「都合のいい解釈だな。
 とんだカツアゲだよ。」

「カツアゲとは失礼な。
 連れてきたのは誰よ。ここに。」

「はいはいはい。
 (わたくし)です。そうです。
 私めにおごらせていただけませんか。
 お嬢様。」

 突然、しおらしくなる朔斗に
 ノリノリで何度も頷く梨花。

「そうでしょうそうでしょう。
 おごりたまえ。
 そうだな、
 ファストフードのパンケーキなんかはどうかな。」

「チッ、そんなんでいいのかよ。
 安上がりなお嬢様だな。
 ほら、行くぞ。」

「な?!どこでお育ちか?
 口が悪すぎるぞ。
 失敬な、言い直しなさい!!」

 朔斗は、梨花を置いて、早々に足を進めた。
 梨花劇場はまだ続いていたようで、
 朔斗に厳重注意したが、無視を貫いている。

(面倒臭いやつだな。
 まったく。連れてくるのいいけど、
 手数料が高くついたな。)

 そう思いながらも
 本当は一緒に梨花とお昼ご飯が食べられることが
 ものすごく嬉しい朔斗だ。

 学校では一緒に過ごすなんて全然できないのだ。
 これはしめたもんだという天使と悪魔の戦いが
 朔斗の中にはあった。

 梨花の頭の上には疑問符が3つ出ていた。

 ファストフードの座席で
 梨花は、早速、パンケーキに舌鼓を打つ。
 朔斗は、不機嫌そうな顔をしつつも、
 心の中では(めっちゃ可愛い)と
 満足していた。

「朔斗は、何にしたの?」

「ダブルてりやきチーズバーカー。」

 本音を隠しながら、
 パクパクと大きな口を開けて頬張る。

「ボリュームたっぷりだね。
 ポテトとセットでしょう。
 私、サラダとセットにしちゃったから
 もらってもいい?」

「ああ。」

「やったね。」

 梨花はポテト1つ食べて、
 くせになり、さらにもう一つ食べた。

 朔斗は怒るかなと思ったが、
 何も言わずにバーガーを食べ続けていた。

(ポテト食べすぎるとニキビできるからな。
 梨花に多く食べてもらった方がいいな。)

「…怒らないの?」

「別に。」

「んじゃ、もっと食べていいよね。」

「どうぞ、食べたいだけ。
 子豚ちゃんになっても気にしないなら。」

「む?」

「食べないのか?」

「それ、嫌な言葉ぁ。
 誰から教わったんですか?」

「……いらないならやらないまでだけど。」

「いえいえ、いただきます!!」

 太ると思いつつも、ポテトのおいしさには
 負けてしまう梨花だった。

「美味しいものは、
 満足するだけ食べてもいいと思うけどな。」

「だよね?」

「帰りはダッシュで帰らないとな。」

「えーーー、走りたくないよ。」

「カロリー消費に決まってるだろ。
 ポテトのカロリーいくらか知ってるのか。」

「知らないよ。朔斗は知ってるの?」

「知らない。」

「知らないくせにぃ。」

「食べた分だけ運動しないとお腹の肉になるのは
 確実だぞ。」

「それは…それは…
 わかってますよーだ。」


 梨花は、あかんべーをした。
 朔斗は鼻で笑って楽しんでいた。


 そんな何気ない会話をできるのも
 きっと今だけなんだろうなと感じた。

 なぜ、学校ではこの空間だけ
 自然に話せるのだろう。

 学校でも同じように話せればいいのに。



***

 帰りの電車の中、トンネルを走る時間は
 静かすぎて、眠くなる。

 いつの間にか隣同士、
 梨花は、朔斗の肩を借りて
 眠っていた。

 朔斗も腕を組んでコックリと
 寝てしまっている。

 周りの状況なんて、
 全然気にしていない。


 学校帰りの他校の生徒が同じ車両に
 いるなんて知る由もない。
 


 タタタンと電車の走る音が響く。

 まったりとした時間が流れていた。

 


< 15 / 47 >

この作品をシェア

pagetop