幸せの欠片たち。
そっか。
そうだよね…。
考えてみたら、私の『好き』に彼がきちんと応えてくれたのは、多分数えても2、3回程度だったじゃないか…。


そして私の告白に対して、彼の答えは何時も困ったように出て来る言葉たちばかり。

なんて、バカなんだろう。

彼が遠回しに迷惑がっていることに、気付かなかったなんて。
まさか、私の『好き』が挨拶程度にしか捉えられていなかっただなんて…。

そして…。
彼が、私の知らない誰かを想っていたなんて。


私は金縛りが解かれたかのように、ハッとしてすぐさまその場を静かに後にし、別ルートで家に帰ってから、その後夕飯も食べずに部屋に閉じ篭って、枕に伏せって泣けるだけ泣いた。


翌日、見事に腫れた目元と酷く顔色の悪い私を見兼ねて、お母さんが休みなさいと言って学校に連絡を入れてくれたのが本当に救いだった。


それから、私は彼に付き纏うことを止めた。


元々、私から動かなければ、学年の違う彼とは、殆ど接点がない。
それが、唯一の救いで…。
今、この状態で会ってしまったら、泣いて彼をまた困らせるだけだと思ったから…。

学校ではなるべく、会わないように。
それでも何処かで擦れ違ったりはしてしまうから、そういう時はわざと友達と騒いで足早にその場を後にしたり、近くにいる仲のいい男子とふざけたりして教室に引っ込んだりと、彼を諦めようと全てをシャットダウンするように、振る舞った。


その度に、何かを言いたげだった彼の視線から逃れるように。


そして、迎えた彼が卒業する前の…最後のバレンタインデー。

私はやっぱり如何しても諦めきれず、仕方がないから…初めて無記名で、誰もいない彼の教室になんとか忍び込み、彼の机の中にそっとチョコを入れた。


本来なら、桜が咲き麗らかな春の陽射しの中、高校生最後となる、私からの『好き』を笑顔で彼に伝えるはずだった。

でも…。
それはあの時に、思い切りぺしゃんこに潰れてしまった、私の想いでは如何しても出来なくて。


卒業ソングが流れ、式が終わった後に、それぞれの子たちが、彼とのお別れへ笑顔だったり泣き顔だったりを見せ惜しんでいるのを、ただ知らないフリをして、帰路についたんだ。
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