幸せの欠片たち。
彼は、そんな私をどんな風に思っていたのか。
そんなことはもう分からないけれど、彼の進路も知らない私には、もうどうすることも出来なかったのだ。


そうして、私はその後、彼と会うこともなく、何も言わないまま地方の大学へと進学し、独り暮らしをスタートさせた。

お母さんには深々と頭を下げて、なるだけ私のことを彼に話さないでとお願いをして、今までないくらいに散々駄々をこね…最初は困惑して、「そんなことできないわよ」と言い、なかなか首を立てに振ってはくれなかったお母さんだったけれど、私のあまりの必死さに最後は仕方なく折れてくれたのだった。


私は、一人目指す見知らぬ土地へと向かう途中、パタンと沢山詰まった彼への『好き』を全て、心の底に封印する。

もう、もう二度と彼に迷惑を掛けないと誓って。


大学に入学してからは、すぐに意気投合して友達となった子と遊んだり、その子に誘われてサークルに入ったり、楽しいことも沢山あったけれど…やっぱり、慣れない土地で一人、講義やレポートに追われ、大変な時が多かったりすると無性に、精神的にしんどくなって…。
そんな風に気持ちが疲れた時、如何しても癒やしか欲しい時は、こっそりと隠し撮りをした、彼の笑顔の写真をスマホで眺めては、その輪郭を指でなぞった。


…会いたい…会いたい。
でも、会えない。
それは、出来ないんだ。


苦しい想いのせめぎ合い。

私からの半ば突き放したようなものだから、今更会える資格もなくて…。


私はその度に、ポロポロと涙を流して、ベッドの上で膝を抱えた。


気持ちに幾ら蓋をしても、想いを潰そうとしても、膨らんでいく想いに歯止めは効かなくて。
愛しさは、身を切るように、私の心を疲弊させて行く。


だから、サークルの飲み会でも、数合わせで駆り出された合コンでも、彼氏なんてものを作る気にはなれず、何時しか「高嶺の花の河野さん」なんて言われるようになってしまっていた。

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