エンドレス・ラプソディ
「まだ俺の周りをうろついてるようだから、次に見かけたら警察に通報するぞって言っとけ」

「そ、そんな」

 シャープナー男は愕然とした。いくら浮気や不倫ではなくても、ホスト狂いになっていたなんて衝撃だろう。

「おまえのせいだ──」

「は?」

「おまえが、たぶらかしたんだ!」

 ホストにしてみれば仕事でしかないのだが、行き場のない怒りは目の前の青年に向けられた。

 男はシャープナーを投げ捨てて、オーバーの中に手を突っ込んで包丁に持ち替えた。さすがに室内がざわつく。

 まあ、数本は持つのが基本なのだろうが、持ち替えたところを見るに、実はシャープナーだって気がついていたんだな。

「おまえのせいで、妻がおかしくなったんだ!」

「おいおい、待てよ。なんでそうなるんだ」

 ホストの仕事は、いや、接客業というのは、曖昧な部分が多い。どこまでが仕事として認識されるのか、その部分でさえ、受け取り方を間違えればもめ事になってしまう。

 それがいま、眼前で繰り広げられている。そして、これはまずい。シャープナー男、もとい包丁男がテンパっている。目がイってる。

「うらあああー!」

 包丁を振り回し始めた。室内は騒然、俺も逃げ惑う。男の背後の扉が見えて、すかさずドアノブを握り外に出た。

 軽いパニックになった俺は、そのまま勢いで玄関まで出てしまった──




  
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