エンドレス・ラプソディ
 
 ──ホテルのエントランスでエレベータを待っていると、カウンターのスタッフにいぶかしげに見られるも呼び止められることもなく、ルームキーで部屋に入る。

 早速、着替えてホテル内のコインランドリーに向かい、貸してくれた服を放り込んで小銭を入れる。

 部屋に戻って、終わるまでテレビをつけて待つが、どうにもモヤモヤしていた。

 あのホームレス、どこかで見た気がする。どこでだろう? テレビの音をBGMにしながら記憶をたどる。

 脳裏にうっすらと浮かぶ一軒家──これは俺の家じゃない。俺は母親との二人暮らしで、小さなアパートに住んでいた。

 小学生低学年の頃、実の父さんと離婚した母さんは、新しい恋人ができて、一緒に住むようになったけど、懐かない俺が気にくわなかったのか、母さんがいないときを見計らって見えないところを狙って殴られていた。

 その日も、母さんがパートに行って、男は寝転がってテレビを見ていた。俺はそれを横目に学校の宿題をしていたのだが、酒がなくなったという理由で腹を立て、起き上がると俺をにらみつけた。

 殴られる!? 俺は咄嗟(とっさ)に立ち上がり、玄関に走って急いで靴を持ち外に出た。

「待ちやがれ!」

 背中に刺さる怒号に足が震えたが、止まらなかった。やがて、疲れて靴を履きゆっくり歩き出す。

 昨日、殴られた腕が痛くて、泣きながらとぼとぼ歩いていたら、生け垣の間から芝生の庭が見えた。それが、とても輝いているように感じて、ふらりと入り込んでしまった。

 そこには、古そうな二階建ての家が建っていて縁側があり、ブロック塀の壁際に盆栽がいくつか並んでいた。

 俺には、夢のような風景だった。しばらく眺めていると、背後から影が差す。
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