エンドレス・ラプソディ
「お、落ち着いてくだしゃい」

 おまえが落ち着け。

「うるせえ! いいから早く金を出せよ!」

 怒号に青年は慌ててレジに手を伸ばす。けれども、青年はぴたりと動きを止めた。

「なんだよ。早くしろよ」

 いらついて怒鳴るも、青年はあわあわとしているだけで、一向にレジに手をつけない。そこで俺は悟った。

 こいつ、もしかして……新人か!? 案の定よく見ると、左胸の名札にはわかりやすく初心者マークのステッカーが貼られている。

 おそらく、まだレジの使い方を教えてもらってないくらいの新人なんだな。青年は困ったようにきょろきょろして、目に留まった女性店員に助けを求める視線を送った。

 けれど、女性店員はへたり込んだままガタガタと震えている。当然の反応だろう。

 さて、新人くんはといえば──レジを開けられない事を説明したそうな表情だが、果たして男はそれを信じるだろうか。

 それよりも、説明したことで男が女性店員に矛先を向けたら大変なことになる。新人くんも、それには気づいたようで口をつぐんだ。
 悩み抜いた新人くんは、足早に奥に駆けていった。

「おい!? 動くなって言っただろ!?」

 しばらくして戻ってきた新人くんの手には、店のトレイが握られている。それをカウンターに置くと、そこには肉じゃがの入った紙製のカップが乗せられていた。
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