エンドレス・ラプソディ
「誰だよ、おまえ」

 アッシュブラウンの短髪はシャワーを浴びた直後なので、濡れて水滴が毛先からぽたぽたと落ちている。

 ちょっとチャラい感じはするが、二十代にはありがちな態度で嫌な印象まではない。

「おまえの妻ってだれ」

「ゆ、結花子(ゆかこ)だよ」

 鋭い目で見下ろされてシャープナー男は少し怯えている。

「結花子? あー……」

「ほ、ほら! やっぱり知っ──」

「そいつ、俺のストーカーな」

「へ?」

「俺、そこの店でホストやってんだわ」

 親指で左をさし、水もしたたるいい男ばりに前髪をかき上げる。

 なるほど、ホストか。それでこの青年の仕草に納得がいった。しかし、こんな事件に連続で遭遇するなんてついてない。

「え? ストーカー? え?」

 思いもしなかった発言に、シャープナー男は狼狽(うろた)えている。

「何度か指名されて、腕時計のプレゼントもらってから、やたら束縛するようになってきたんだよ」

 他の客に笑いかけるなとか、見送りもするなとか。

「他の客と話をするなって。そんなの無理に決まってるじゃねえか。断ったら今度は、付きまとうようになってよ」

 店側は悪質な客と判断し、彼女を出入禁止(でいりきんし)にした。
< 9 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop