ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
多くの企業、マスコミ、広告代理店の本社、更には外資系企業の支社がひしめき、日本経済の中心の一端を担っていると言われる、このオフィス街の一角に、化学、繊維、住宅、建材、エレクトロニクス、医薬品、医療等の事業を行う総合化学メーカ-「(株)AOYAMA」の本社ビルはある。


総合化学業界においては、国内有数の売り上げを誇る同社の総本山には、日によっては1000人近い来訪者があり、また関連会社を含む多くの社員が出入りしている。


そんな千客万来の同社のエントランスホールに立ち入ると、すぐ正面に見える受付ブースで、そんな彼ら、彼女たちを、華やかな笑顔と丁寧な物腰で出迎え、応対するのが、中にいる「受付嬢」と呼ばれる3人の女性たちだ。


「いらっしゃいませ、本日はご苦労様でございます。」


その中のひとり、菱見凪咲(ひしみなぎさ)は、立ち上がり、自分の前に立った来客に恭しく一礼する。そして、自らの所属会社と名前、そして来意を告げてくる相手の言葉を聞きながら、素早くリストを確認する。


「はい、承っております。それでは、本日は5Fの第一会議室にお願いいたします。」


と、にこやかな笑顔のまま、相手に入館証を手渡すと、踵を返す来訪者を一礼して見送る。


「かしこまりました、少々お待ち下さいませ。」


隣では同僚の新垣千晶(あらがきちあき)が、相手にそう告げると、すぐに内線電話の受話器を手に取り、担当者に連絡を取っているし、更にその横では、もう1人の同僚である桜内貴恵(さくらうちきえ)が、掛かって来た外線電話に出ている。


そして、一件の応対、案内が終われば、すぐに別の来訪者が現れ、


「お待たせいたしました。本日は、どのようなご用件でございましょうか?」


次の応対が始まる。かと思えば、今度は内線電話が鳴り出し


「はい。エントランス受付ブース、菱見です。」


凪咲が出ると


『すみません。明日の14時から、第3会議室は空いてますか?』


問い合わせが入る。


「お待ちください・・・はい、大丈夫です・・・かしこまりました、それでは明日の14時から16時まで抑えておきます。」


パソコンを確認して回答した凪咲は、もう1度時間を復唱してから電話を切る。余計なおしゃべりをしている余裕なんか、当然なく、今の内容をすぐにパソコンに入力して行く。


受付嬢イコ-ル来客対応というのが、一般的なイメージかもしれない。もちろんそれが彼女たちのメインの仕事であることは間違いないが、企業受付では会議室の予約管理や準備・後片付け、あるいは外線やメールの対応も職務の1つになっている。
< 1 / 178 >

この作品をシェア

pagetop