ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「結婚前の女性が、男と同棲したことをはしたないとか言う輩が、この田舎には、未だに存在していることは事実なんだけど、そんなのはっきり言って戯言に過ぎない。少なくても、僕にとって、君を厭う理由になんか全くならないんで。」


そう言い切った廣田は


「ということで、話を戻させてもらうよ。僕の気持ちはさっき、伝えた通りだ。それに対して、君が僕なんかに興味を持てない、お付き合いなんか、真っ平ゴメンだと言うなら、諦める。約束するよ。でも、もし、多少なりとも、そういう候補として見てもいいかなって気があるなら、考えてみてくれないか?」


凪咲を改めて見る。


「廣田くん・・・。」


「今すぐ返事をしてくれなんて、言うつもりはない。ただ最後にこれだけは伝えておく。今回のことは、僕の両親にも、菱見さんのご両親にも全く相談してない。そして、もうひとつ、僕と結婚するイコール鳳凰の女将になる、と言う考えは捨てて欲しい。」


「どういうこと?」


「僕は君が望まないのに、旅館の経営に携わってもらう必要なんかないと思ってる。」


「それはいくらなんでも、あなたのご両親が認めるはずは・・・。」


「今の時代、旅館の息子、娘が跡を取らないなんて例は珍しくもなんともない。だとしたら、その配偶者がそれを強制されるなんてこともあり得ない。」


そう言って、廣田はニコリと微笑んだ。


「廣田くん・・・わかりました。少し、お時間をもらっていいですか?」


そう言った凪咲に


「もちろんさ。とりあえず、即振られなくて、ちょっとホッとした。」


廣田はそう言って笑うと


「今日は、本当にありがとう。感謝します。」


頭を下げた。


「ううん。私の方こそ、いろいろとありがとう。」


そう答えた凪咲も笑顔だった。


こうして、思わぬ時間を過ごした凪咲は、廣田と別れ、充希の運転する迎えの車に乗り込んだ。


実家に向かう道すがら


「どう、廣田くん?私は推すけどなぁ。」


充希が、助手席の凪咲に言うと


「俺も充希に賛成だな。」


後部座席から勉も同意の声を上げるが


「もっとも、俺は大城もいい奴だと思ったからなぁ。」


と苦笑いを浮かべる。まさか、妹が裕とも再会しているとは夢にも思っていない。


「おにい、裕と一緒にしたら、廣田くんに失礼だよ。」


「凪咲・・・。」


妹の言葉に、勉は驚くが、凪咲の中で、廣田の気持ちを拒む理由は今は見つからなくなっていた。
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