ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
そんな地元での2日間を振り返りながら、凪咲は改めて考えていた。


高校を卒業して、東京の大学に進学したのは、やはり、1度は地元を離れて、新しい世界を見てみたいという、かねてからの希望からだった。そこでの生活が水に合い、そのまま就職したのだが、絶対に地元に帰りたくないと思っていたわけではない。むしろ、いずれは戻ることになるのかもしれないという気持ちもあったのだが、その一方で、仕事はやりがいがあったし、こちらで出会いがあれば、また違う道もあるのだろうなとも考えていた。


だが、あのお見合い騒動が、結局、凪咲を地元から遠ざけることになった。


それから・・・まもなく3年の月日が経とうとしている今になって、それまで、頭の片隅にもなかった帰郷が、現実の選択肢となって、自分の前に提示された形になり


(私、なんで地元に帰りたくないって、ずっと思ってたんだろう?あんなことになって、今更もう戻れないよなって、考えてたのは確か。でも・・・。)


との思いが、もたげて来ていた。転職し、正社員から派遣社員への転身することになったのは、決して本意ではなかったし、受付嬢という仕事も、望んで就いた職業ではなかった。が、それでもUターンを全く考えなかったのは


(それ以上に、とにかく私がこっちに居たかったんだ・・・。)


という思いからだったと、凪咲は思い至った。それはなぜなんだろう?都会での自由な暮らしを手放したくなかったのか、それももちろんあるだろう。でも本当にそれだけだったのだろうか・・・?


もちろん、そんなことをずっと考えて、仕事を蔑ろにしていたわけではないが、それでも、時間が出来ると、ついそちらに思考が向いてしまうのを、凪咲は抑えられずにいた。


「お帰りなさい。」


千晶の声がして、凪咲はハッと現実に戻る。見ると、裕が取り巻き連と共に帰社して来たのが目に入って、凪咲は思わず、彼から視線を逸らした。


このところの裕は、社内をぶらつくのには飽きたのか、あるいはさすがにバツが悪くなったのか、外出をするようになっていて、この日は、営業部員数名と取引先を巡る為、直行外出するとの報告がブースにも来ていた。


「営業視察ですって。どうせ、早川たちと適当にヘラヘラしながら、お茶を濁すんでしょ?ウチの御曹司なら、相手企業だって、邪険には出来ないでしょうし。」


例によって、毒づく貴恵の言葉に、凪咲は頷くことしか出来なかった。
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