ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
そのまま終業を迎え、更衣室に引き上げた凪咲が、ため息をつきながら、着換えていると


「菱見さん。」


着換え終わった貴恵が、声を掛けて来る。


「呑みに行こうか?」


「えっ?」


「無理にとは言わない。でも、私は、あなたとジュニアの間には何かあるとずっと思ってたの。」


と言い出した貴恵は、どうやら、着換えている間に千晶から、さっきの話を聞いたようだ。


「でも菱見さんが言いたくないんなら、無理に聞き出すつもりはなかった。でも、千晶だけじゃなく、早川までその話を聞いてる以上、どの道、明日はまた大騒ぎだよ。だったら、その前にちゃんと話を聞かせてもらえないかな?私、これでも一応あなたの上司だからさ。」


「桜内さん・・・。」


「行きましょうよ、凪咲さん。チ-フが誘ってくれるなんて、こんな機会、滅多にありませんよ。チ-フの奢りでガンガン呑んで、全部、吐き出してスッキリしちゃいましょうよ。」


そこへ、ヒョイと顔を出した千晶に


「なに?別にあんたを誘うつもりはなかったんだけど。」


言い放つ貴恵。


「あっ、ひど~い。部下を差別するなんて、酷過ぎます。」


「あんた、私とじゃ気づまりで嫌なんでしょ?」


「私、そんなこと1度も思ったことありません。喜んでお供します。」


懸命に頭を振る千晶に、貴恵も凪咲も思わず吹き出してしまう。


「わかりました。それでは、よろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げた凪咲は


「やった~。じゃ、行きましょう。」


千晶に腕を引っ張られ、そのまま一緒に更衣室を出た。


AOYAMAで貴恵と同僚になってから、自分の歓迎会を当時のブースチ-フだった三嶋理沙が開いてくれた時を唯一の例外として、凪咲は彼女とプライベ-トな時間を過ごしたことはなかった。


「私も女だからさ、この手の話にはやっぱり興味をそそられるからね。」


店に入って、席に着き、注文を終えたあと、そう言って、いたずらっぽく笑った貴恵は


「でも、もう1つは今度こそ、新城裕という男の正体を、ちゃんと菱見さんから聞けるんじゃないかと思ってね。」


と続けた。それを受けて


「『一緒に暮らしていた』っていう言葉から受けるイメ-ジと、私たちの実際の関係は、ちょっと違うんですけど、私があの人と約半年に渡って、ひとつ屋根の下で暮らしていたのは事実です。」


凪咲は話し出した。彼と同棲するに至った経緯、そして顛末・・・。そして


「私たちの間には、いわゆる男女の関係は、1度もありませんでした。そして、私は目的を達成出来たので、約束通り、半年で同居を解消して、現在に至るということです。」


と言う言葉で、最後を結んだ。
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