ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「そう、なんですか・・・。」


それに対して、千晶も貴恵も、なんとも釈然としないというか、はっきりしない表情を浮かべている。


「まぁ、普通は信じられないですよね、こんな話。でも、これが事実なんで・・・。」


ふたりの表情を見ながら、凪咲は言う。


「その半年の間、おふたりはシェアハウスで、ほとんど没交渉で暮らしてらしたんですか?」


「ううん。キッチンとかは共有スペ-スにあったから、ご飯一緒に食べたり、お茶しながら話したり、休みの日にビデオ一緒に見たり、出掛けたこともあったよ。」


「えっ?じゃ、結構ガッツリ付き合ってたんじゃないですか?」


「まぁ、そうなるかな。でも彼はそもそも結婚に興味ないって言ってたし・・・。」


「結婚に興味なくても、女に興味ないとは限らないでしょ?」


「えっ?」


千晶の言葉に、凪咲が思わずハッとすると


「基本的なこと、聞いていい?」


今度は貴恵が聞いて来る。


「菱見さん、ジュニアのこと、好きだったの?」


「桜内さん・・・。」


「例えどんな事情や理由があろうと、好きでもない男と同棲しないよね?普通。」


「・・・。」


「そして、男の方も、なにか下心とか、目的がない限り、絶対にそんなしち面倒臭いこと、引き受けないよね?」


貴恵の言葉に、千晶が大きく頷く。


「新城さんの気持ちはわかりません。でも私は、偽彼氏をお願いした時点で、当然彼のことを信頼してましたし、実際に同棲してからも、彼の誠実な人柄に、好意は持ちました。でもそれだけです。」


「それだけ?」


「私は新城さんとの関係を進めようとは思わなかった。彼もまたそうだった。だから、約束通り、半年で私たちの関係は終わったんです。」


そう言い切った自分の言葉がウソであることは、もちろん凪咲はわかっている。実際には、凪咲は裕への想いを募らせ、その気持ちを彼にぶつける決心をしていた。だが、その寸前、彼は忽然と姿を消し、そのことにショックを受けた彼女は、精神的に不安定となり、仕事までうまく行かなくなり、当時勤めていた会社を辞めざるを得なくなってしまったのだから。


「そっか、わかった。とにかくさ、明日菱見さんもいろいろ大変だろうけど、ジュニアだって、当然、取り巻きの女たちに問い詰められる。その時、あの男が何て答えるか、それを聞いてみよ。」


凪咲の顔をじっと見ていた貴恵は、そう言うと


「さ、取り敢えず食べよう。今日は本当に私の奢りだから、菱見さん、遠慮なく食べて。」


と言って笑顔を見せる。


「そして、呑みましょう。」


千晶も続けて言うと


「ありがとうございます。」


凪咲も笑顔で答えていた。
< 107 / 178 >

この作品をシェア

pagetop