ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
だが翌日。裕は会社に姿を現さなかった。朝、出勤途中の早川に


『悪いけど、今日からしばらく会社休むんで、みんなによろしく。』


という彼からのLINEメッセ-ジが突然入って来た。驚いた早川がすぐに


『どうか、なさいましたか?』


と事情を尋ねたが、そのメッセ-ジに既読マークが付くことはなく、心配していると、どうやら、他の取り巻き連中にも裕から同じメッセ-ジが一斉に送られたようで、彼らのLINEは騒がしいことになって来た。が、昨日退勤後、いつものように彼と呑みに行った面々はいたが、夜の9時には別れたそうで、その後の彼の状況を知ってる者はいなかった。


不安の面持ちのまま、出社した彼らだったが、午前中には、状況が伝わって来た。


出社後、取締役たちを集めた新城社長が


「昨晩、息子といろいろ話した結果、『当面、出社に及ばず』と申し渡した。」


と告げたのだという。それが漏れ伝わると


「さすがに社長も、堪忍袋の緒が切れたんだろう。」


「当然、というより遅すぎだよね。」


といった、冷ややかな声が、社内からは上がり


「こんなの酷過ぎます。ジュニア、このところ、仕事も頑張ってたじゃないですか。」


などと憤る千晶のような声は、少数だった。


「何言ってるのよ。まぁ、何かと耳目を集める存在だったのは確かだけど、別にあの男がいなくなっても、今の会社の業務上の不都合になることは、ほぼないのが現実だからね。当然の処分だよ。」


貴恵が言う横で


(どうせなら、昨日の帰りまでに、こうなってくれればよかったのに・・・。)


そしたら、裕に余計なことを暴露されずに済んだかもしれないと、凪咲は、内心愚痴っていたが、実際にはその後、彼女が裕とのことを詮索されるようなことはほとんどなかった。


「失脚した御曹司の過去なんて、もはや社員たちにとっては、どうでもいいことなんだよ。あの男を追っかけ回してた女ども、まぁ男もそうだけど、とんだ見込み違いだったね。」


せせら笑うような貴恵の言葉に


「そうですね・・・。」


と頷いた凪咲だったが、その目がとても悲しそうなのに気付いた千晶は、ハッとしたように彼女の顔を見つめてしまっていた。
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