ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
仕事が終わり、凪咲が会社を出ると、まるでそれを待っていたかのように、スマホが震え出した。待ち受け画面を確認した凪咲は、そこに表示された意外な名前に、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに通話ボタンを押すと


「もしもし、こんばんは。」


と明るい声で、電話に出た。


『今、大丈夫かな?』


やや遠慮がちにそう尋ねて来た声の主は、廣田耕司だった。


「うん、今、会社を出たとこ。」


『なら、よかった。突然なんだけど、実は僕、今、菱見さんの会社の最寄り駅の改札口にいるんだよ。』


「えっ、そうなの?」


『うん。それで・・・急で申し訳ないんだけど、よかったらこれから夕飯、一緒にどうかな?』


思わぬ誘いに、また驚いてしまった凪咲だったが


「喜んで。じゃ、すぐにそっちに向かうから、そのまま待っててくれる?」


と答える。


『わかった、気をつけてね。』


通話を終えた凪咲は、やや早足になって、廣田のもとに向かう。やがて、彼の姿が視界に入ると、凪咲の表情が思わず綻んだ。


「廣田くん。」


「あ、お疲れ様。なんか急がせてごめんね。」


「ううん、大丈夫。」


そう言いながら、笑顔を交わすふたり。


「今日はどうしたの?」


「うん。ある有名な料理人とのコラボで、期間限定で宿泊者の夕食にその人が監修した懐石料理をお出しするという企画があってね。その打ち合わせに。」


「そうだったんだ。」


「この手の打ち合わせは、だいたい先方からこちらに出向いていただく方が多いんだけど、その料理人さんは売れっ子でさ。ウチみたいな田舎までは来られないっていうからさ。それで、久しぶりに東京に出て来たんだけど、それにしても人、人、人・・・やっぱり凄いね。僕なんかは圧倒されちゃうよ。」


苦笑いを浮かべる廣田に


「そうだよね・・・ところで廣田くんは、今日はこっちに泊まり?」


頷いた凪咲が尋ねる。


「いや、そうしたいのはヤマヤマなんだけど、そうもいかなくて。」


「そっか。じゃ、あんまりのんびりもしてられないね。場所、決めさせてもらっていい?」


「実は佐山さんから、菱見さんの御用達の店を聞いて来てるんだ。凪咲と行くなら、絶対そこがいいって。」


「充希がこっちに出て来た時、何回か一緒に行った店のことかな?じゃ、そこにしよう。」


「ああ。」


こうしてふたりは、肩を並べて歩き出した。
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