ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
ふたりが入ったのは、健康と美をテーマに、厳選食材を使った手作りのフードやドリンクを味わえる。ヘルシーメニューを多数取り揃えたカフェレストランだった。中に入ると、アンティークのおしゃれな家具が並び、その空間には、どこか懐かしさが感じられる。


席に着くと


「なんかこじゃれた雰囲気の、居心地のいい処だね。」


周囲を見回しながら、廣田が言う。


「そう言ってもらえると嬉しい。お料理もヘルシ-で美味しいし、それにコスパもよくて・・・でも男性にはちょっと物足りないかもしれないな。」


「いや、僕はそんなに食べる方じゃないから、ちょうどいいよ。」


そんなことを言いながら、メニュ-を開き、注文を済ませたふたりは、改めて向かい合う。LINEは何度か交わしたが、直接会うのも、言葉を交わすのも、あの時以来だった。


「でも鳳凰さんと言えば、お料理がおいしいので有名なのに、そんなコラボなんかするんだ?」


凪咲が切り出すと


「ウチはそれなりに歴史もあるし、湯にも料理にも自信は持ってるよ。実は、今回の企画を立ち上げるに当たっては、ウチの料理長から猛反対を食らったよ。『若旦那は私の料理に何か不満でもあるんですか?』って。」


「そうなんだ。そう言えば、料理長さんって、昔と変わってないの?私が小さい頃、鳳凰さんに遊びに行ってた時に、何度か会ったことがあるけど、なんか怖そうな人だった気がする。」


「昔気質の頑固職人って感じでさ。僕のことなんか、未だに若造扱いで頼りない若旦那だと思ってるみたいだから、そんな僕がいきなりそんなことを言い出して、余計頭にきたんじゃないかな。」


苦笑いを浮かべて廣田が答える。


「そっか・・・。」


「彼の料理は美味しいと思うよ。でもさ、何て言ったらいいのかな。THE懐石って感じで、無難だけど、何か定型化してると言うか、そんな感じがするんだ。」


「廣田くん・・・。」


「今は常連のお客様だけを向いて、伝統と名前に胡坐をかいて、のほほんとしてられる時代じゃない。若い人たちにも、外国人のお客様にも興味を持っていただかなければ、生き残ってはいけないんだよ。」


と熱っぽく語り始めた廣田だったが、ハッとした表情になると


「ごめん。こんな話、菱見さんには興味ないよね。」


バツ悪そうに言い出す。


「ううん、そんなことないよ。廣田くん、頑張ってるんだね。凄いなって素直に思う。」


首を振った凪咲が、笑顔で言うと


「いや、そんな大したことじゃないよ・・・。」


照れたように、廣田は答えた。
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