ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「ご存じの通り、僕の仕事は土日祝日は書き入れ時なんで。正直なかなか時間が作れない。だから結局このまま立ち消えになっちゃうんじゃないかって、ずっと不安だったんだ。ごめんな。」


申し訳なさそうに言う廣田に


「ううん、そんなことないよ。会いに来てくれて、会ってお話し出来て、嬉しかったです。」


「そっか、なら・・・よかった。」


「今日は本当にありがとう。じゃ、また。おやすみなさい。」


凪咲は笑顔でそう言った。その凪咲の言葉に、一瞬驚いたような表情を浮かべた廣田だったが、すぐに嬉しそうに


「菱見さん・・・うん、また。」


と答える。


「うん。」


笑顔を交わし合った後、名残惜しそうに見つめ合ったふたり。


「おやすみ。」


最後にそう言って、廣田は凪咲に背を向けた。


(おやすみなさい。大丈夫、時間なんて、その気になれば、いくらでも作れるよ。それが自分たちにとって、何よりも大切な時間だと思えるなら・・・そうでしょ?廣田くん。)


遠ざかる彼の後ろ姿に向かって、凪咲は語り掛けていた。


翌日から、凪咲は変わらず、AOYAMAのブースに立った。来客を笑顔で迎えながら、多忙だが、でもあまり変わり映えのしない時間が過ぎて行く。


(仕事なんて、そんなものだし・・・。)


仕事なんて、所詮は生きて行く為の術、かもしれない。でも、今の凪咲は自分の中から、仕事に対するやりがいや意欲が急速に失われて行くのを自覚していた。


(どうしちゃったんだろう、私・・・。)


自分の中で自問し続けていた凪咲だったが、やがて1つの結論に達した。


(そっか。私、受付嬢という仕事が嫌になったんじゃない。ここにいることに、意義を見出せなくなったんだ・・・。)


ここ、とはAOYAMAという企業であり、もっと言えば、東京という今、自分が暮らしている街のことだった。


大学進学に伴い、こちらに出て来たのは、都会でのキャンパスライフや生活に興味を抱いていたからで、別に実家や故郷が嫌になったからではない。就職をそのまま、こちらでしたのも、特に深い考えがあったわけではなく、むしろいずれは故郷に帰ることになるだろうという思いは強かった。


そんな凪咲を気持ちを、故郷から遠ざけることになったのが、例のお見合い騒動だった。だから、大塚ケミカルズを退職し、再就職に苦戦している時も、凪咲の中には、帰郷と言う選択肢はなく、結局正社員時代に比べれば、条件が劣ることになるが、派遣社員として、こちらに残った。自分の意に沿わない人生を歩まされるなんて、真っ平ごめん。その自分の意思からすれば、当然の選択だった。
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