ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
近くのレストランに入り、昼食を共にしながら、凪咲と廣田の会話は弾んだ。LINEや電話でのやりとりも増え、ふたりの距離は確実に近づきつつあった。


「なんかいいね。」


食後のコーヒ-を口にしながら、凪咲はポツンと呟いた。


「なにが?」


尋ねる廣田に


「この時間、この空間が。」


と答える凪咲。


「菱見さん・・・。」


「今更だけど、故郷って、やっぱりいいかも。」


そう言って、凪咲は笑うと、廣田も嬉しそうに笑った。


もっと一緒に居たかったが、廣田は今日の宿泊客の受け入れに備えなければならなかった。


「ごめん。せっかく来てくれたのに、なんか慌ただしくて。」


「ううん、私の方こそ、無理に時間作ってもらっちゃって。」


そんなことを言い合いながら、席を立ったふたりは鳳凰に戻った。慌ただしく業務に戻る廣田を見送ったあと、凪咲は旅館に併設されている喫茶室に入る。そこには充希が待っていた。


「お待たせ。」


と言いながら、席に着いた凪咲に


「なんか楽しそうだね、凪咲。」


充希は言う。


「そう?」


「うん、廣田くんと順調ですって、顔に書いてある。」


「充希・・・。」


いきなりの親友の言葉に、一瞬戸惑った表情を見せた凪咲だったが


「でも、朝、お母さんとお客さんをお見送りしてる廣田くんを見てて、ひょっとしたら、将来私も彼の横でああしてるかもしれないなぁなんて、ふと思っちゃった。」


と続けるから


「おぉ、大胆発言。」


充希がちゃかすように言う。


「ちょっと、大胆発言って・・・。」


「だってあれだけ女将になるのを嫌がってた凪咲の口から、そんな言葉が出れば、誰だって驚くでしょ。」


「そうかもしれないけど・・・でも少なくても女将になるのが嫌だから、廣田くんを避けたり、拒みたいっていう気持ちはないかな。そして、自分の仕事に一途に邁進する彼に、好意を持ち始めてる。それは認めるよ。だから、もちろんまだ完全にそう決心したわけじゃないけど、そんな彼を支えて行く人生も悪くないかもって思い始めてる自分がいるのも確か。」


「そっか。随分、心境の変化があったんだね。」


「そうかもね。まぁ自分が廣田くんに好意を抱いてることと、向こうにいる理由がもうなくなっちゃったことに気が付いたからね。」


そう答えて、凪咲は真っすぐ、親友を見た。
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