ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
エレベ-タ-の中の裕は、相変わらず賑やかにやっていたが、他の連中が降りて行き、ひとりになった途端、スッと表情を改めた。そしてエレベ-タ-を降りると、そのまま真っすぐに社長室に向かい、その扉を開いた。


「ちょっと、社長に話があるから、失礼するぞ。」


と言って、そのまま執務室に入ろうとする裕を


「困ります。いかにジュニアと言えども、アポのない方を社長室にお通しするわけにはいきません。」


社長秘書が慌てて、制止しようとする。


「来客中か?」


「いえ。」


「じゃ、構わんだろ?」


「しかし・・・。」


「緊急事態だ。アポがあるとかないとか、そんなことに拘ってる場合じゃない。」


そう言って、秘書を振り切ると、裕はノックをすると


「失礼します。」


と言いながら、中に入った。顔を上げた社長は、突然の息子の登場に驚くこともなく、その後ろで困惑の表情を浮かべる秘書に「構わん」とばかりに頷いて見せると、秘書はホッとしたように執務室を後にする。


「どうした?」


「父さん、いや、社長。準備完了です。」


と勢い込む裕に


「わかった。じゃ、明日から打ち合わせ通り、始める。大丈夫だな?」


社長は念を押すように告げる。


「はい、よろしくお願いします。」


裕は姿勢を正して、一礼した。


一方、そんなことがあったとは、知る由もない凪咲たちは、終礼を終え、引継ぎの警備員たちを待つばかりになっていたが、そこへ内線電話が鳴った。


「はい、受付ブースです。・・・はい、終わりました。少々、お待ち下さい。凪咲さん、秘書課長からです。」


千晶から受話器を渡された凪咲は


「えっ、私?」


戸惑いながら、電話に出た。


「お電話替わりました、菱見です。・・・はい、わかりました。すぐに伺います。」


そう答えて、受話器を置いた凪咲に


「どうしたの?」


貴恵が尋ねる。


「すぐに課長の所に来て欲しいそうです。」


「ふ~ん、何だろうね?」


「わかりません、とにかく行ってみます。」


「うん、じゃよろしく。何の話だったか、明日教えてくれる?」


「わかりました、ではお先に失礼します。」


ふたりに挨拶をして、凪咲はブースを離れた。
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