ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
指示された面談室に向かう間、秘書課長からの呼び出しの理由の見当がつかない凪咲は、内心首を捻っていたが、ハタと気付いた。


(そっか、契約のことだ・・・。)


それ以外に、派遣社員の自分が、課長から呼び出される理由は考えられない。


(なら、ちょうどいい機会だから、契約満了に伴い、退職させていただくって意思表示をしておこう。)


自分の考えがまとまり、気が楽になった凪咲は面談室のドアをノックすると


「失礼します。」


中に入り、一礼して、頭を下げた次の瞬間、凪咲は思わず固まった。そこに待ち受けていたのが、秘書課長と・・・裕だったからだ。


「どうぞ、お掛けになって。」


課長が席を勧める声が聞こえ、ハッと我に返った凪咲は


「失礼します。」


固い表情のまま、腰を下ろした。


「勤務終了後にごめんなさいね。緊急で大切なお話が出来たんで。」


と切り出した秘書課長。


(大切な話・・・。)


これはどうやら、契約の話ではない。凪咲の中で、緊張が高まって来る。


「こちらは、社長のご子息の新城裕様。」


(様って・・・。)


常務とか専務といった会社の肩書きがまだない裕を、しかしさん付けでは御曹司に失礼だと思ったのか、様付けで紹介して来た課長の言い草が、なんとも珍妙で、凪咲は思わず吹き出しそうになるが、なんとか堪える。すると


「ごめんなさい。そう言えば、おふたりはその・・・昔からのお知り合いだったんですものね。」


とやや言い辛そうに付け加えて来る。やはり自分たちのことは、秘書課長の耳にも入っているんだな、と凪咲は思う。すると


「課長、裕様は止めて下さい。普通に新城で結構ですから。」


裕が口を挟んで来る。さすがに違和感を感じたらしい。


「そうですか、失礼いたしました。それで、本題に入らせてもらうけど、来てもらったのは、実は新城さんが、菱見さんを是非、ご自分の秘書にとおっしゃってるいるのよ。」


「ええ!」


あまりに意外な言葉に、凪咲は驚きの声を上げ、次に思わず裕の顔を見ると、彼は大きく頷いて見せた。
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