ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
翌朝。


「おはようございます。」


その時、自分たちに声を掛けて来たのが誰なのか、受付嬢たちは気付くのに少し時間が掛かった。いや、正しくは貴恵と千晶には、だ。自分の前に、スッとその男が立った瞬間


「裕・・・。」


凪咲はその男を名を口にしていた。その凪咲の声に、訝しそうに彼の顔を改めて見た2人は


「ジュニア。」


男が新城裕その人であることに、ようやく気が付いた。かつて、初日にはアロハシャツのような私服で現れ、それ以降も、派手な色にスーツに身を包んでいることが多かった裕が、今は、ノーマルな紺のスーツをパリッと着こなしている。その変貌ぶりに戸惑っている彼女たちに構わず


「今日も1日、よろしく。」


今までのチャラさは全くなく、落ち着いた雰囲気を醸し出した裕は凪咲にチラッと笑みを向けると、そのままブースを離れて行く。


(裕・・・。)


その笑顔に、一瞬とドキッとしてしまった凪咲の横で


「どうしちゃったの?急に・・・。」


貴恵は呆気にとられ


「はぁ・・・。」


千晶も返事に困り、居合わせた社員たちも、概ね唖然としている。


そのままエレベ-タ-に向かって歩いて行った彼に気付いて、近寄って行った取り巻き連中に、いつものジュニアスマイルを振り巻いたものの、周囲が眉をひそめるような行動はとることもなく、裕はエレベ-タ-に乗り込んで行く。


「カッコいい、なんか別人みたい・・・。」


その後ろ姿を見送りながら、感に堪えないといった声を出す千晶は


「ひょっとしたら、あれが凪咲さんが知ってるジュニアなんですね?」


と弾んだ声で、聞いて来るが、


「ううん、ちょっと違うかな・・・。」


ポツリと答えた凪咲は


(私、チョロいな・・・。)


一瞬とは言え、裕の笑顔にときめいてしまった自分を思わず自嘲しながら、彼の姿の消えた方を見つめていた。


そして、事態が動き出していた。


裕が、ある部屋に入ると、人事部長が待ち構えていた。


「おはようございます。ご指示通り、該当社員には昨夜の内に、全員連絡をとっております。朝礼終了後に、この部屋に集まって来る手はずになっています。」


慇懃な態度で言う部長に


「ありがとう。」


裕は1つ頷くと、そう言った。
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