ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
秘書課長が退席したのを見届けた裕は改めて、凪咲の正面に座り直した。その彼の動きに、一瞬ハッとした表情を浮かべた凪咲だったが、すぐに彼から視線を逸らす。そんな凪咲に


「まさか即答で断られるとは思わなかった。」


やや苦笑いを浮かべながら、裕は言う。


「ごめんなさい。でも・・・。」


「でも?」


「正直言わせていただいて、今のあなたに、秘書なんて必要なの?そんな大変そうなお仕事をされてるようには見えないけど。」


一瞬、躊躇ったあと、凪咲ははっきりと言った。


「凪咲・・・。」


これには、一瞬驚いたような表情になった裕だが


「厳しいこと、言ってくれるな。」


と言うと、すぐにまた苦笑いを浮かべ


「実は明日、俺を役員待遇にするという辞令が出る。」


改めて切り出した。


「えっ?」


「役員待遇になれば、秘書が付くことになる。そこで、凪咲に俺の秘書をやって欲しいんだ。」


その裕の言葉を聞いた凪咲は


「役員待遇になった証として、女を身近に侍らせたいって言うわけ?だったら、喜んで引き受けてくれる子が他にいくらでもいるでしょ!」


思わず言ってしまっていた。これには、さすがに裕も表情を歪め、それを見た凪咲は慌てて


「ごめんなさい、言い過ぎました。」


と頭を下げる。一瞬流れた沈黙のあと


「いや、再会してからの俺を見てれば、凪咲がそう言いたくなるのもわかる。」


裕は静かに言った。


「でも聞いて欲しい。明日の辞令は、正式には『本日付で新城裕を役員待遇とし、業務改善委員会リーダ-を委嘱する』となっているはずだ。」


「えっ?」


「俺は3年間、大塚ケミカルズで社会勉強をさせてもらった後、AOYAMAに入社して、まずは海外で1年、そして帰国して本社勤務となる予定だった。だが、諸事情あって、帰国が遅れて、ようやく帰って来ることになって、親父から与えられた使命は、今の会社業務をフラットな目で見直して、改革、改善するということだった。」


「・・・。」


「その為に、俺がやるべきことは、まず現状を知ることだった。でも、御曹司という立場で、俺が現場に入り、社員たちに近付いたとしても、みんな身構え、取り繕った姿や仕事ぶりを見せるだけだったはずだ。だから今まで、わざとチャラい格好や言動をしながら、社内をうろつき、行動して来た。こんないい加減な奴なら、大したことはやれないし、やるつもりもないだろうって、社員たちに思わせて、本当の姿や現状を見せてもらえるように。」


「・・・。」
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