ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「そしてもう1つ。今回与えられたミッションを遂行するに当たって、俺が海外に居て、国内や本社に距離を置き続けて来たことは確かによかった。というか、それを見越して、親父は俺にそれを命じたんだろう。だが、結果としてそれは、海外で接した少数の人間を除いては、ほとんどの社員たちと人間関係を築けなかったというデメリットも生んだ。今回のプロジェクトを発足させるにあたって、周囲に気心が知れた人間が全然いないというのは、正直不安だった。だから俺は仕事ともう1つ、人を見ていたんだ。」


「人を?」


「ああ。俺も社長もリストラをするつもりはないが、俺たちが今からやろうとしてることは、桜内が恐れているように結果として、今までの自分のキャリアや経験、ノウハウを否定され、業務や立場を失う部署や人をいくつも、何人も出すことになるかもしれない。そして、それが自分が所属していた部署かもしれないし、親しい同僚や先輩かもしれないんだ。生半可な気持ちでは絶対に出来ない。」


「・・・。」


「だから、コイツならと俺が見込んだメンバ-を集めて、明日、このプロジェクトをスタ-トさせる。そして発足に当たっての最後のピースが凪咲、お前だ。」


「えっ、私?」


驚いたように自分を見る凪咲に


「凪咲が大塚ケミカルズを辞めて、今はウチの会社にいると知った時は驚いた。だが、正直嬉しかったよ。ひとりで本社に乗り込むことにプレッシャ-も感じていたから、本当にありがたいと思ったし、幸運だと思った。」


「どういうこと?」


「さっきも言った通り、俺には社内に気心が知れたといえる社員がほとんどいない。だからこそ、旧知のお前に、一緒にやって欲しいんだ。凪咲に秘書として側にいて欲しいんだ。」


裕はそう言うと、真っすぐに凪咲を見た。その真剣な表情に、一瞬驚いたように彼を見た凪咲だったが、すぐに静かに首を横に振った。


「凪咲・・・。」


「ごめんなさい。だいたい私は派遣社員だし、それに前にも言ったよね、私が大塚を辞めた理由。ミスを連発して、居ずらくなって辞めざるを得なくなったからなんだって。そんな私に、そんな大役、無理に決まってるじゃない。」


「凪咲。お前と一緒に住んでた半年間は伊達じゃないんだぞ。」


「裕・・・。」
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