ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「その人、高校時代、甲子園に出場して優勝経験もあるピッチャ-でさ。カッコよくて、優しくて、仕事熱心で、右も左もわからなかった私を、一所懸命に指導してくれて、守ってくれて・・・そりゃ惚れちゃうよね。」


そう言って笑った理沙だが、すぐにその笑顔を収めると


「でもその人は、就職直前に大失恋をして、すっかり恋愛に後ろ向きになってて・・・結局振り向いてもらえなかった。そのまま、私は1年で海外事業部に異動になって、先輩と離れることになり、先輩は諸事情あって、翌年退職してしまった。それでも諦められなくて、グズグズと連絡取ってたんだけど、そのうち、その人は、大失恋の相手とは別の、高校時代の想い人と心を通じ合わせて、結ばれて・・・私の出番は完全になくなっちゃった。だからもう手が届かない人なんだって、頭では分かっていた、つもりだったんだけど、ね・・・。」


「三嶋さん・・・。」


「でも、私は気が付いてしまったの。結局、私はまだその先輩のことが忘れられないでいて、その自分の気持ちを自分に胡麻化したくて、彼と無理矢理一緒になろうとしてるだけなんだって。本当に彼を愛してはいないんだって。」


その理沙の言葉に、凪咲は息を呑んだが


「酷い女だと自分でも思う。でもどうしようもなかった、あのまま彼と結婚しても、幸せになれる未来が見えなくなっちゃって・・・。こんな気持ちで結婚したら、彼に失礼だ。そう思い至った時、私にはもう選択肢が他になかったの。彼には今でも申し訳ないことをしたと思ってるし、周囲に多大な迷惑を掛けてしまったことも自覚してる。でもあの時の私の決断は絶対に間違ってなかった。そう思ってる。」


最後に理沙はそう言い切った。そこへ、食後のデザ-トとドリンクが運ばれて来て、会話が途切れる。目の前に置かれたコーヒ-カップを手に取り、ひと口、口に運んだ理沙は


「ということで、なんで、こんな自分の黒歴史を話したかって言うと、あの頃の私と今の菱見さんがダブって見えるからなの。」


そう言って、真っすぐに凪咲を見た。


「三嶋さん・・・。」


その言葉に驚いた表情を浮かべる凪咲に


「菱見さん、あなたは本当にこのままでいいの?」


確認するように、理沙は尋ねる。
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