ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「どうした、何かあったか?」


尋ねる裕に


「実は・・・折り入ってお願いがあります。」


固い表情で早川は言う。


「お願い?」


「はい・・・自分をジュニアの秘書にしていただけないでしょうか?」


「なに?」


「僭越なことを申し上げていることは、重々承知しております。ですが、自分の口で言うのもなんですが、秘書として、ジュニアに誠心誠意お仕えし、お役に立てる自信も覚悟もあります。ですから、是非ご検討願えないでしょうか?よろしくお願いします!」


そう言って、深々と頭を下げた早川を、唖然とした表情で見ていた裕だったが


「急にどうしたんだ?」


と問い質した。それに対して、やや躊躇ったような表情を浮かべた早川は、しかし意を決したように


「ジュニア、俺はお眼鏡に適いませんでしたか?」



「早川・・・。」


「業務改善委員会のメンバ-から、なんで俺は外されたんですか?」


と尋ねると、真っすぐに裕を見た。


今回のプロジェクトのメンバ-の多くは、裕が帰国してから、連れ歩いたり、一緒に騒いできた面々だった。社内で顰蹙を買いながら、彼らと交友を深めて行った裕は、その実、冷徹に自分とやれそうな、役立ちそうな面々を選定していたのだ。


それだけに、今回のプロジェクトメンバ-がいずれ訪れるであろう裕の時代に、社の中枢を為す存在になる候補であるという見方が、当然社内にはあった。裕の懐深く入り込んだと自負していた早川には、そのメンバ-から外れたのは相当ショックだったのだろう。


(そういうことか・・・。)


合点がいった裕は


「お前をメンバ-に入れなかった理由は簡単だ。お前が根っからの営業マンだと思ったからだ。」


「えっ?」


「だから、わざわざお前が力をもっとも発揮できる部署から外す必要なんかない、そう思ったからだ。他意はないよ。」


と言って、笑った。


「ですが・・・。」


しかしその言葉に、尚も承服しかねるという表情の早川に


「社内でいろいろ言われているのは知っているし、それを聞いて、お前が焦りを感じるのもわからなくはないが、今回のメンバ-の多くを俺が指名したのは事実だが、人事部から推薦されたり、社長直々にメンバ-に加えるように指示を受けた人間もいる。それに・・・俺は確かに社長の息子だし、だからみんなからジュニアなんて呼ばれているんだが、でも、将来の社長の後継者と決まっているわけじゃない。」


と言ってのけた。
< 134 / 178 >

この作品をシェア

pagetop