ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「ジュニア・・・。」


息を呑んだような表情になった早川に


「先々代の社長が創業家である新城の出身じゃなかったのは、お前も知ってるだろう。」


平然と裕は続ける。


「はい、ですが・・・。」


「先々代の後釜に親父が就いた時は、『大政奉還』なんて言われたらしいが、とにかくAOYAMAが世襲だけを是としてはいないことは、事実が証明している。俺は今のところ、親父からこの会社を継がせるとも継がせないとも言われていない。まぁさすがに、候補のひとりにはしてくれてるとは思うけどな。」


「・・・。」


「お前だから、ぶっちゃけてしまったが、要はそういうことだ。だから、委員会のメンバ-に、今の俺が将来の側近、幹部の地位を約束しても、それは単なる空手形に過ぎない。安心しろ。」


と言って笑った裕に、早川は何も言えなくなり


「とにかくお互い、持ち場で成果を出して、会社を盛り上げる。それだけを考えて頑張って行こう。」


という言葉に送られて、裕の執務室をあとにした。彼の姿が、ドアの外に消えた途端


(そう、俺は所詮、親父に試されてる身。今回のプロジェクトで一定の成果を挙げ、親父を納得させない限り、俺がAOYAMAを継ぐことはない。別に社長の座に固執するつもりはなかったが、ここまで来たら、俺にも意地がある。)


そんな思いが、裕の胸に過るが


(とりあえず、また明日だ。)


気を取り直すと、デスクの上を片付け、オフィスを出た。


エレベーターで地下の駐車場まで降り、車に乗り込み、30分ほど走らせると、そびえ立つような高層マンションが見えて来る。


帰国当初に住んでいた実家を出て、このマンションの一室で、裕がひとり暮らしを始めてから、まもなく2か月になる。


部屋に入り、灯りを付け、着替えと手洗い、うがいを済ませ、キッチンに入った裕は、まず冷蔵庫の中を確認。今夜のメニューを頭の中で組み立てると、調理に掛かる。


多忙な両親に代わって、面倒を見てくれていた祖母のもとを、大学進学と同時に離れると、裕は自炊をせざるを得なくなったが、祖母から料理を仕込まれていた彼が困ることはなく、自分を甘やかし過ぎることがなかった祖母の愛情が改めて、身に沁みたものだ。


手慣れた様子で、生姜焼きをメインディシュにサラダ、副菜に味噌汁も作り、テーブルに並べ、席に着いた裕は


「いただきます。」


と手を合わせると、箸を手にして、食べ始める。


「今日もいい出来だ。」


自賛の言葉を口にして、他に音もなく、静かなダイニングで、裕は箸を進める。
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