ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
『せっかくの料理を「ながら」でいただくなんて、作ってくれた人に失礼なことだし、一緒に食べる人がいるなら、食事はもちろん、その人と一緒にいられる時間を楽しむようにしなさい。』
という祖母の教えは、今も裕の中に生きている。もっとも、せっかくのその料理の腕前を人に披露した経験は、大好きだった祖母以外には、ほとんどいない。両親にも、友人やその時付き合っていた恋人にすら・・・たったひとりの例外は、半年間、1つ屋根の下で過ごしたあの子だけだ。
(向かい合って、食事を摂りながら、その日にあった出来事を報告し合った時間、休日に一緒に出掛けて、肩を並べて歩く時間、ソファで隣り合って映画を見た時間・・・彼女とのそんな時間が本当に楽しみだった。そして明日への活力になっていたんだ・・・。)
偽りから始まったはずのふたりの時間が、徐々にかけがえのない本物の時間へと変化しつつあることを裕は自覚せざるを得なかった。そして、恐らく彼女も・・・。だからこそ、あの時の裕には、その時間を終わらせるしかなかったのだ。
(そんな俺に対して、彼女が心を閉ざしてしまっているのは当たり前のことだ。それはわかっている、だが・・・。)
食事を終え、後片付けを済ませた裕はベランダに出た。正面から、ライトアップが眩しい東京タワーが目に飛び込んできて、一面に美しい夜景が広がる。もっとも、それに感動し、しばし見入ったのはせいぜい最初の1週間だったが。
裕は思う。今、自分の横に彼女がいてくれれば、彼女の肩を抱き寄せながら、一緒にこの夜景を眺めることが出来れば、どんなに素敵なことだろう、と。正直に言えば、ひとり暮らしにはあまりにも贅沢な、このマンションを裕が新たな住居に定めたのは、彼女をここに迎えるつもりだったからに他ならない。
だが、それは現在のところ、全く現実的な話ではなかった。彼女は自分の秘書になることを拒否し、派遣契約の満了に伴い、AOYAMAを去る意思を正式に申し入れて来た。それどころか、よりにもよって、自分が協力してご破算になったはずの見合いの相手と付き合うようなことを言い出し、実際に週末を利用して、何度かデートも重ねているらしい。
(いくらなんでも、それはないだろう・・・。)
裕は憤りを覚えるが、しかしそれを止める権利が今の自分にないのは明らかなことだった。
(俺には凪咲が必要なんだ。もちろん、それは秘書としてだけじゃない。誰にも渡すわけにはいかない。絶対に・・・。)
その思いを自分の中で、改めて確認した裕は
(そろそろ本気で行くしか、ない。)
次の瞬間、前方をキッと見据えていた。
という祖母の教えは、今も裕の中に生きている。もっとも、せっかくのその料理の腕前を人に披露した経験は、大好きだった祖母以外には、ほとんどいない。両親にも、友人やその時付き合っていた恋人にすら・・・たったひとりの例外は、半年間、1つ屋根の下で過ごしたあの子だけだ。
(向かい合って、食事を摂りながら、その日にあった出来事を報告し合った時間、休日に一緒に出掛けて、肩を並べて歩く時間、ソファで隣り合って映画を見た時間・・・彼女とのそんな時間が本当に楽しみだった。そして明日への活力になっていたんだ・・・。)
偽りから始まったはずのふたりの時間が、徐々にかけがえのない本物の時間へと変化しつつあることを裕は自覚せざるを得なかった。そして、恐らく彼女も・・・。だからこそ、あの時の裕には、その時間を終わらせるしかなかったのだ。
(そんな俺に対して、彼女が心を閉ざしてしまっているのは当たり前のことだ。それはわかっている、だが・・・。)
食事を終え、後片付けを済ませた裕はベランダに出た。正面から、ライトアップが眩しい東京タワーが目に飛び込んできて、一面に美しい夜景が広がる。もっとも、それに感動し、しばし見入ったのはせいぜい最初の1週間だったが。
裕は思う。今、自分の横に彼女がいてくれれば、彼女の肩を抱き寄せながら、一緒にこの夜景を眺めることが出来れば、どんなに素敵なことだろう、と。正直に言えば、ひとり暮らしにはあまりにも贅沢な、このマンションを裕が新たな住居に定めたのは、彼女をここに迎えるつもりだったからに他ならない。
だが、それは現在のところ、全く現実的な話ではなかった。彼女は自分の秘書になることを拒否し、派遣契約の満了に伴い、AOYAMAを去る意思を正式に申し入れて来た。それどころか、よりにもよって、自分が協力してご破算になったはずの見合いの相手と付き合うようなことを言い出し、実際に週末を利用して、何度かデートも重ねているらしい。
(いくらなんでも、それはないだろう・・・。)
裕は憤りを覚えるが、しかしそれを止める権利が今の自分にないのは明らかなことだった。
(俺には凪咲が必要なんだ。もちろん、それは秘書としてだけじゃない。誰にも渡すわけにはいかない。絶対に・・・。)
その思いを自分の中で、改めて確認した裕は
(そろそろ本気で行くしか、ない。)
次の瞬間、前方をキッと見据えていた。