ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
翌日。


「失礼します!」


ノックもそこそこに、凪咲が裕の執務室に入って来たのは、終業チャイムが社内に鳴り響いて、まもなくだった。帰り支度をしていた理沙が、驚いて顔を上げ


「菱見さん・・・どうしたの?」


と尋ねるが、入って来た凪咲は


「裕・・・いえ、新城リーダ-はいらっしゃいますか!」


勢い込んで言う。自分の知る、大人しく、控えめな凪咲とは全く似つかわない、興奮した様子に、理沙が戸惑っていると


「何を騒いでるんだ、凪咲。」


扉が開き、苦笑いを浮かべながら、裕が現れた。


「ちょっと、あなたに話があるんだけど。」


「あれから、俺が呼び出しても全然応じなかったのに、そっちから現れるとは、どういう風の吹き回しだ?」


「とぼけないで!桜内さんがあなたの秘書って、どういうことなのよ?」


「えっ、本当?」


その凪咲の言葉に、理沙が驚きの声を上げる。


「さっき、終礼前に桜内さんが、秘書課長から呼び出されて、内示を受けたんです。」


と説明する凪咲に対して


「そうか。今日、伝えたのか。」


裕は平然としたものだ。


「どうもこうもない、間もなく栗木常務が帰国されるから、三嶋さんをお返ししなくちゃならんからな。そう言えば、俺には秘書なんていらんだろうというご意見もあったが、実際、そうかな、三嶋さん?」


「いえ。役員待遇であることはもちろんですが、業務改善委員会リーダ-は激務です。お支えする秘書の存在は必須だと思います。」


「だそうだ。」


「・・・。」


「ということで、最初にお願いした人には、けんもほろろに断わられたし、仕方なく、人事部とも相談して、桜内ブースチ-フを起用することにした。それだけのことだ。」


皮肉交じりの裕の言葉に、グッと詰まってしまった凪咲だったが


「で、でも・・・三嶋さんが異動されて、桜内さんがチ-フになられて、まだそんなに時間も経ってないし・・・。」


辛うじて、そう口にする。が


「菱見さん、それは全然関係ないわ。適材適所と思われる人材を、そのポストに配置するのが会社の人事というものでしょ?」


窘めるような理沙の言葉に、それ以上、なにも言えなくなる。俯いてしまった凪咲に


「じゃ、行きましょう。」


理沙が声を掛けるが


「いや、せっかく凪咲の方から乗り込んで来てくれたんだ。もう少し、話をしようぜ。」


そう言うと、裕がニヤリと笑う。


「そうですか。では、私はお先に失礼します。」


その言葉を受けて、理沙は一礼して、部屋を出て行った。
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