ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
こうして、ふたりになった凪咲と裕。


「なんか飲むか?」


裕が尋ねると、黙って首を振る凪咲。


「驚いたな。」


「えっ?」


「桜内本人が怒鳴り込んで来るかもとは思っていたが、まさか凪咲が現れるとは思わなかった。」


「ごめんなさい。」


「謝ることはない。お蔭でようやく、こうやってまた話が出来るからな。」


そう言って、優しい笑顔を浮かべる。


「それに、久しぶりに見られたからな。」


「えっ?」


「おかしいと感じたこと、言うべきだと思ったことは、それが相手が上司であろうと、キチンと臆せずに言う。そんな凪咲の姿を俺は前の会社で何度も見聞きした。」


「裕・・・。」


「そんな凪咲の姿勢が、当時の上司に煙たがられていたところへ、俺が突然消えてしまって、動揺したお前がミスをたまたま重ねてしまったのを、必要以上に追及されてしまい、居辛くなって辞めざるを得なくなった。そんな顛末だったそうだな。なんでお前が前の会社を辞めて、派遣としてウチに勤めているのか、俺はずっと疑問だったんだ。それで改めて、いろいろ調べてみて、最近やっと、真相がわかった。」


「・・・。」


「やっぱり俺のせいだったんだな。すまん。」


そう言って、頭を下げて来た裕を、一瞬息を呑んだように見た凪咲は、次に静かに首を振った。ようやく場が落ち着き、静寂が流れるが、それを意を決したように、凪咲が破った。


「1つ聞いていい?」


「ああ。」


「『おかしいと感じたこと、言うべきだと思ったことは、それが相手が上司であろうと、キチンと臆せずに言う。』って、今、あなたはそう言った。だとしたら、やっぱりあなたは、桜内さんを自分の秘書にしようとしていることを自分でもおかしいと思ってるってこと?」


「ああ。」


その問いに、あっさりと裕は頷くと


「早川が俺の秘書にしてくれと売り込んで来た時にも同じようなことを言ったが、桜内は受付嬢になる為に生まれて来たんじゃないかと思うくらい完璧な受付嬢だ。アイツの能力はブースでこそ生きる。凪咲だって、そう思ったからこそ、怒鳴り込んで来たんだろ?それに、彼女の能力以前に、俺とアイツがうまくやっていけると思うか?」


「だったら、どうして・・・?」


「桜内をブースから抜くと言えば、俺の意中の本命が驚いて、考えを変えてくれるんじゃないと思ってな。」


そう続けて、裕は笑った。
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