ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
だが、その笑いをすぐに納めた裕は


「『おかしいと感じたこと、言うべきだと思ったことは、それが相手が上司であろうと、キチンと臆せずに言う』。そんなお前が、業務改善委員会というプロジェクトに必要だと、自分でも思わないのか?」


真っすぐに凪咲を見た。


「裕・・・。」


「前にも言ったが、凪咲が、ウチの会社にいることを知った時、俺は本当にありがたいと思ったし、幸運だと思った。是非秘書として、俺の側に居て、支えて欲しいと思ったんだ。」


「・・・。」


「だから、もう1度だけ言わせてもらう。凪咲に支えて欲しいんだ。今の俺には、凪咲の力が必要なんだ。一緒にやってくれないか?」


そう言って、頭を下げる裕を、困惑の表情で見ていた凪咲は


「あなたの気持ちはわかったけど、何度も言うけど、私は途中入社の、それも派遣社員だよ。」


訴えるように言うが


「正社員にする、それなら文句ないだろ。」


「えっ?」


ここで会話が途切れ、お互いの顔を見るふたり。


「ごめん。」


「凪咲・・・。」


「私、怖いよ。」


「えっ?」


「確かに、私は前の会社で言いたいこと言って来たかもしれない。まだ若かったし、正義感も強かったと自分でも思う。でも結局、それが仇になって、上司に睨まれて・・・。自分のミスも重なって、追い出されるように会社を辞めた上に、再就職も邪魔されて・・・私、裕が思うほど強くないよ。今の私は、残りの派遣契約期間を全うして、ひっそりとこの会社を去りたい。ただそれだけなの。だから・・・。」


「俺が守る。」


言い募る凪咲の言葉を裕は遮った。ハッと彼の顔を見る凪咲に


「見くびるな、俺はこれでも、AOYAMA社長の息子、御曹司なんだ。自分の大切な人を、守れなくてどうする。」


裕はそう言い切った。


(大切な、人・・・。)


裕のその言葉を心の中で繰り返した凪咲は、思わず彼を見つめてしまう。どのくらい経っただろう。


「条件があります。」


凪咲が口を開いた。


「正社員への登用はお断りします、派遣のままでいいんなら、お受けします。」


覚悟を決めたように言った。


「なぜ?」


「私を秘書にするだけでも、きっといろいろ言われるのに、正社員にまでしたら、裕がますます痛くもない腹を探られることになっちゃう。それに・・・。」


「それに?」


「私、あなたのこと、まだ完全に信用出来ないから。」


そう口にした凪咲に


「敵わねぇな・・・全く。」


苦笑いを浮かべる裕。それを見て、凪咲は再会してから、初めて彼の前でいたずらっぽく微笑んだ。
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