ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「あなたが理沙さん、呼んだの?」


すると貴恵が厳しい口調と表情で、凪咲に聞いて来る。


「いえ、通りかかった社員さんが、連絡して下さったみたいで。」


「そう。」


答えた凪咲の顔を見ずに、貴恵は頷いた。


それからは、特別のことは何もなく、時が過ぎて行ったが、お昼休みを告げるチャイムが社内に鳴り響き、来客の波もいったん収まると、貴恵の小言が再開された。


「確かにお客様をお待たせしないのは、私たちの基本。だけど、それは当然時と場合による。物事の優先順位を間違えると、その場は凌げたとしても、結局後になって、問題が大きくなって、解決するのにより大きな労力を割かれることになるのよ。そんなこと、社会に出たばかりの新人じゃないんだから、知らないわけじゃないでしょ。」


今回のケースはたまたま不運が重なってしまい、滅多に起きることではないのだが、応援の手を煩わせてしまったことは、責任感の強い貴恵にとっては屈辱的なことだったようで、彼女の怒りは収まらない。千晶は項垂れ、凪咲もフォロ-に入れないまま、お説教は続き


「よりによって、理沙さんに助けてもらうなんて・・・。」


と貴恵が口走ったところで、凪咲と千晶は思わず、彼女の顔を見る。そんな2人の様子にハッとした表情を浮かべた貴恵は


「とにかく今後は絶対に気を付けてよ。」


ようやく矛を収めて、昼休憩に向かった。残された2人の間に、なんとも言えない空気が流れていると


「災難だったねぇ。」


と言う声が聞こえて来る。


「早川さん。」


「途中から聞いてたけど、結局、桜内は三嶋さんの手を借りたのが嫌なだけじゃん。個人的感情で部下を叱りつけるなんて、小せぇ奴だな。ま、あんまり気にするなよ、千晶ちゃん。」


そう言って笑う早川に


「はい。」


とこれまた笑顔で頷く千晶に、それは違うという思いを凪咲は抱いて、内心首をひねる。すると


「ごめん、菱見さん。ちょっと、新垣借りるよ。」


と言う早川の言葉が聞こえて来て


「は、はい・・・。」


ややきょとんとした表情で頷いた凪咲の横で、立ち上がった千晶は、そのままちょこちょこと早川に着いて行く。少し離れた所で、何やら話していた2人だったが、やがて


「わかりました。じゃ、凪咲さんにも話してみます。」


「ああ、よろしく頼むよ。」


という会話が聞こえて来て、凪咲は思わず2人を見た。
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