ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
凪咲の異動が公になると、さまざまなリアクションの声が上がったが、社内外問わず多かったのは、彼女がブースを離れることを惜しむ声だった。


「そうですかぁ・・・それは残念です。菱見さんの顔を見るのが、こちらに伺う時の何よりの楽しみだったんですから。」


顔見知りの営業マンに挨拶をすると、そんな返事が返って来たし


「疲れた身体を引きづりながら、会社を出る時の菱見さんの笑顔に、ずっと癒されたんだけどなぁ。」


「それ、別に男子だけじゃないし。私も同じです。」


今まで挨拶程度しか交わしたことのなかった社員からもそんな声を聞いて


(あんまり目立たないように、大人しくして来たのに、みなさんからそんな風に思っていただいてたなんて・・・。)


凪咲は正直、驚いていると


「でしょ?凪咲さんは社内外で人気が高いって、私は何度も言ったじゃないですか?」


千晶が笑って言う。


そうかと思うと


「菱見さん、この度は本当におめでとう、そしてありがとう。」


言って来たのは、早川だ。


「はぁ・・・。」


なんと返事をしたらいいかわからず、凪咲が戸惑っていると


「ジュニアを助けてあげて欲しい。今、ジュニアは会社を良くして行こうと日夜奮闘されている。菱見さんが秘書として、あの人を支えてくれれば、百人力だ。どうか、よろしく頼む。」


そう言って、深々と頭を下げて、早川は立ち去って行く。


「あの男、どの立場でモノ言ってるの?すっかりジュニアの側近気取りじゃない。」


呆れた口調の貴恵の横で


(御曹司にくっ付いておいて、損はないって思ってるのもあるだろうけど、それだけじゃない。早川さんは裕に、心底心服してるように私には見える・・・。)


裕の人を惹き付ける力ということについて、凪咲は改めて考えさせられていた。


そんな中、業務の合間を縫って、引継ぎの為に理沙を訪ねると


「とうとう、ジュニアに口説き落とされたね。」


開口一番、そう言われ


「口説くって・・・。」


複雑な表情を浮かべる凪咲。


「菱見さんも、ジュニアがここまで自分を秘書にすることに拘ったことに、業務以外の何の下心もないなんて、思ってるわけじゃないでしょ?」


「・・・。」


「いいんだよ、それで。今のあなたたちにはキチンと向き合う時間が必要なんだから。」


「三嶋さん・・・。」
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