ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
受付嬢としての勤務を終え、週明けからいよいよ裕の秘書としての勤務が始まるという合間の週末。凪咲は故郷に向かった。


「おかえり。」


駅に降り立った凪咲を出迎えてくれたのは、廣田だった。


「ただいま。いつも、ごめんね。」


帰郷頻度が上がった凪咲を、駅まで迎えに来るのは、当初は勉や充希だったが、今は彼の役割になっていた。


「いや。僕の方こそ、君にばっかり、こっちに帰って来させてしまって、申し訳ないと思ってるんだ。」


「ううん。週末に廣田くんが身動きが取れないのは、仕方ないことだから。私が会いに帰って来るのは当然だよ。それに、両親の様子も見られるから・・・。」


「そっか、そう言ってもらえると僕もホッとするよ。じゃ、行こうか?」


「うん。」


この後、ふたりは少し早めの昼食を一緒に摂った後、廣田は凪咲を実家まで送り、土曜の書き入れ時に備える為に、慌ただしく仕事に戻って行く。


走り去って行く廣田の車を、じっと見送っている凪咲に


「おかえり。」


と声が掛かる。


「充希、来てたの。」


兄の婚約者でもある親友の姿を認めて、凪咲は笑顔になる。そんな彼女に


「明日もデート?」


充希が尋ねると


「そうだね。」


凪咲は頷く。翌日に宿泊客がチャックアウトし、忙しさが一段落する頃に、今度は凪咲の方が鳳凰に廣田を迎えに行き、束の間の逢瀬の時間を楽しむ。こんなデートパタ-ンをこのところ、2人は何度か繰り返して来ている。


「順調そうでよかったじゃない?」


「順調・・・なのかな?」


「順調でしょ。」


「私も毎週帰って来てるわけじゃないし、こうやって帰って来た時も、そんなに長い時間、会ってられる訳じゃから。」


「今は細切れでも、ふたりの時間を重ねて行くことが大事なんじゃない?」


「そっか・・・。」


ここで少し会話が途切れ、なんとなく見つめ合うような形になった2人だったが


「取り敢えず家の中に入ろうよ。おにい、どうせ、まだ店に出てるんでしょ?」


凪咲が言うと


「うん。どうやらお店のこと、本気みたい、ツッくん。」


答えた充希は、フッと表情を曇らせる。


「どうかしたの?」


「凪咲・・・ごめん。私、ひょっとしたら、あなたのお義姉さんになれないかも。」


そう言って、俯いた充希を


「充希・・・。」


凪咲は息を呑んだように見た。
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