ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
翌朝。鳳凰の駐車場に車を停め、廣田を待っていた凪咲は、前日の充希との会話を思い出していた。
「ツッくんに対する気持ちは、全然変わってない。大好きだし、大切なフィアンセだよ。菱見のおじさん、おばさんにも、小さい頃からツッくんや凪咲と変わらないくらい可愛がっていただいてる。私がツッくんと婚約する時には『充希ちゃんがウチの娘になってくれるなんて、こんなに嬉しいことはない』って言っていただいて、私の方こそ本当に嬉しかったんだ。ツッくんがお肉屋さんを継ぐことにも、反対じゃないよ。ツッくんが本当にやりたいことなら、心から応援したい。でも・・・私は、正直に言って、今の仕事を捨てて『肉屋さんの嫁』になることには抵抗がある。」
「充希・・・。」
「廣田くんが凪咲に、自分との結婚イコ-ル鳳凰の女将になることじゃないって言ったように、ツッくんも私に家業には関わらなくていいって言ってくれるかもしれない。でも、それって現実的なことだと思う?」
「・・・。」
「おじさん、おばさんがお元気なうちはいいよ。でも、この間、おじさんが体調を崩されたように、ふたりだって、いつまでもお店に出られるわけじゃない。ふたりが引退したら、ツッくんがひとりでお店を切り盛りしていかなきゃならなくなる。その時は誰か人を雇えばいいって言うかもしれないけど、申し訳ないけど従業員を雇って、お店の経営が成り立っていくとは私には思えない。」
「そうかもね・・・。」
「その時、約束だからって私、知らん顔出来る?ツッくんの奥さんになってる私が?絶対に出来ないよ、出来るはずないよ。だとしたら・・・ねぇ、凪咲。私、ツッくんと自分の気持ち、どっちを大切にしたらいいの?」
そう言った時の充希の思い詰めたような表情を思い出して、凪咲の胸にギュッと痛みが走った、次の瞬間
「お待たせ。」
宿泊客の見送りを終えた廣田が、笑顔で助手席に乗り込んで来た。
「お疲れ様でした。」
そんな彼に、慌てて笑顔を向けると、凪咲は車をスタ-トさせる。
「昨日も満室?」
「お陰様で。」
「すごいね。」
「紅葉シーズンだからね。この時期にお客様が来てもらえないようじゃ、お先真っ暗だよ。」
そう言って、穏やかに笑った廣田は、その後、自分が抱いている今後の旅館経営のビジョンの一端を、凪咲に語り出した。その熱い思いに触れる度に、凪咲は彼に引き込まれるような魅力を覚える。
昼食を共にしたあと、ふたりはそのシーズン真っ盛りの紅葉を見ようと足を運ぶ。多くの観光客に紛れながら、目指す渓谷の前に並んで立ったふたりは、その美しさに思わず息を呑む。
「やっぱり綺麗だね・・・。」
「うん。」
感に堪えないという口調の凪咲に頷いた廣田は、チラッと横の彼女に視線を送ると、そっとその左手を取った。ハッと肩を揺らした凪咲は、しかし抗うことなく、そのまま廣田に手を預ける。そのまま、どのくらい前方の絶景を見つめていただろう。
「廣田、くん。」
意を決したように、凪咲は呼び掛けた。
「ツッくんに対する気持ちは、全然変わってない。大好きだし、大切なフィアンセだよ。菱見のおじさん、おばさんにも、小さい頃からツッくんや凪咲と変わらないくらい可愛がっていただいてる。私がツッくんと婚約する時には『充希ちゃんがウチの娘になってくれるなんて、こんなに嬉しいことはない』って言っていただいて、私の方こそ本当に嬉しかったんだ。ツッくんがお肉屋さんを継ぐことにも、反対じゃないよ。ツッくんが本当にやりたいことなら、心から応援したい。でも・・・私は、正直に言って、今の仕事を捨てて『肉屋さんの嫁』になることには抵抗がある。」
「充希・・・。」
「廣田くんが凪咲に、自分との結婚イコ-ル鳳凰の女将になることじゃないって言ったように、ツッくんも私に家業には関わらなくていいって言ってくれるかもしれない。でも、それって現実的なことだと思う?」
「・・・。」
「おじさん、おばさんがお元気なうちはいいよ。でも、この間、おじさんが体調を崩されたように、ふたりだって、いつまでもお店に出られるわけじゃない。ふたりが引退したら、ツッくんがひとりでお店を切り盛りしていかなきゃならなくなる。その時は誰か人を雇えばいいって言うかもしれないけど、申し訳ないけど従業員を雇って、お店の経営が成り立っていくとは私には思えない。」
「そうかもね・・・。」
「その時、約束だからって私、知らん顔出来る?ツッくんの奥さんになってる私が?絶対に出来ないよ、出来るはずないよ。だとしたら・・・ねぇ、凪咲。私、ツッくんと自分の気持ち、どっちを大切にしたらいいの?」
そう言った時の充希の思い詰めたような表情を思い出して、凪咲の胸にギュッと痛みが走った、次の瞬間
「お待たせ。」
宿泊客の見送りを終えた廣田が、笑顔で助手席に乗り込んで来た。
「お疲れ様でした。」
そんな彼に、慌てて笑顔を向けると、凪咲は車をスタ-トさせる。
「昨日も満室?」
「お陰様で。」
「すごいね。」
「紅葉シーズンだからね。この時期にお客様が来てもらえないようじゃ、お先真っ暗だよ。」
そう言って、穏やかに笑った廣田は、その後、自分が抱いている今後の旅館経営のビジョンの一端を、凪咲に語り出した。その熱い思いに触れる度に、凪咲は彼に引き込まれるような魅力を覚える。
昼食を共にしたあと、ふたりはそのシーズン真っ盛りの紅葉を見ようと足を運ぶ。多くの観光客に紛れながら、目指す渓谷の前に並んで立ったふたりは、その美しさに思わず息を呑む。
「やっぱり綺麗だね・・・。」
「うん。」
感に堪えないという口調の凪咲に頷いた廣田は、チラッと横の彼女に視線を送ると、そっとその左手を取った。ハッと肩を揺らした凪咲は、しかし抗うことなく、そのまま廣田に手を預ける。そのまま、どのくらい前方の絶景を見つめていただろう。
「廣田、くん。」
意を決したように、凪咲は呼び掛けた。