ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「改めまして、今日からよろしくお願いします。」


出勤して来た裕を、凪咲は秘書として、折り目正しく迎えた。が、そんな凪咲を一瞥したあと


「堅苦しい挨拶はなしでいい。」


そう言った裕は、彼女をいきなり抱き寄せた。


「ちょ、ちょっと新城さん・・・。」


慌てて抗おうとする凪咲に構わず、その細い身体を、腕の中に収めた裕は


「ふたりの時は裕と呼んでくれ、敬語もいらない。いいな。」


言い聞かせるように言い、そのまま、彼女を閉じ込めた裕に為すがままになっていた凪咲だったが、やがて我に返ったかのように


「いい加減にして!」


と言うと、裕の身体を突き放し


「何考えてるのよ!あなた、真面目に仕事する気あるの?」


睨むように彼を見た。


「その言葉は心外だな、もちろん仕事のやる気は満々さ。だが、そのエネルギ-源としての『凪咲エキス』をチャ-ジさせてもらっただけさ。」


涼しい顔でそう言ってのけた裕に


「最低・・・。」


思わずそう口走った凪咲は


(廣田くんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい・・・。)


唇を噛み締めたが、なんとか気を取り直すと


「それでは本日のスケジュ-ルの確認を・・・。」


と切り出したが


「そんなの、全部頭に入ってるからいい。」


裕が遮る。


「それより凪咲。今日は着任初日だから、ずっと俺に付いてろ。」


「えっ?」


「片時も俺から離れるな、いいな。」


「で、でも・・・。」


いくら初日でも、秘書が1日中、仕える上司にくっ付いて歩くなんて、聞いたことがない。戸惑う凪咲に構わず


「じゃ、行くぞ。」


有無を言わさぬ様子で言うと、裕はそのまま執務室を出て行くから、仕方なく、凪咲も後に従って、部屋を出た。


2人がまず向かったのは、プロジェクトチ-ムの本拠地であるオフィス。ここでメンバ-全員が会しての朝礼が行われ、一同の前に立った裕が


「おはようございます。本題に入る前に、今日から三嶋さんに代わって、俺の正式な秘書が着任したので紹介する。菱見凪咲、先週まで、受付嬢だったから、みんなも顔は見知ってると思う。彼女とは、以前俺が勤めていた会社の同期で、その優秀さは俺もかねてよく知っていたから、今回、俺のたっての希望で秘書を務めてもらうことにした。じゃ、凪咲。みんなに挨拶を。」


と、凪咲を紹介し、挨拶を促すと、


「今、ご紹介いただきました通り、本日から本プロジェクトリーダ-秘書を務めさせていただくことになりました。どうか、よろしくお願いいたします。」


あえて簡単な挨拶に留めた凪咲だったが、その場には微妙な空気が流れていた。
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