ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
しかし、そんな雰囲気を全く気にする様子もなく、裕はそのまま、この日のスケジュ-ル、流れの確認に移り、それが終わると、メンバ-たちは各自の担当の部署に散って行く。


「それじゃ凪咲、行くぞ。」


裕も凪咲に声を掛けると、彼らと共に部屋を出る。現在プロジェクトメンバ-は3つのグル-プに別れて、活動しており、裕自身もその中の1つを率いていた。


「今日もよろしくお願いします。」


入った現場の長に挨拶すると、裕は早速、ひとりの社員に近付いて行き


「おはよう。少し時間いいかな?」


と、笑顔で声を掛けるが


「は、はい・・・。」


声を掛けられた社員は、相手が社長の息子、御曹司ということもあり、また何を聞かれるのかという思いもあり、表情を固くしている。すると


「そんなに構えないでくれよ。俺はとにかく、現状が知りたいんだ。この工程において、誰が何の作業を行っているのか?業務はどのようなフローで進んでいるのか?そして、なぜこの工程が必要なのか?俺はこの部署の仕事について、何も知らない。知らないということは、何の先入観もないということで、つまり現状を否とも応とも思っていないんだ。もちろん、君がここで何を言ったとしても、人事評価に悪い影響が出るなんてことも絶対にないんだから。」


「はぁ・・・。」


「とにかく、俺たちのプロジェクトの目的は、この会社のよくすること、そしてみなさんが働き易い環境を作り出すこと、ただそれだけなんだから。よろしく頼むよ。」


あくまで、裕がソフトタッチで語り掛けると


「わかりました。」


と答えた社員の表情は、ようやく和らいでいた。その様子を見ながら


(御曹司という立場を笠に着ないで、絶対に上から目線でモノを言わないようにと、自分に言い聞かせてるのがわかるな・・・。)


凪咲は思っている。


こうして話し始めたふたりだったが、やがて


「いや、これだけの量の発注書を、なんで君ひとりが処理してるの?あまりにも非効率過ぎるよ。だいたい発注書のペーパーレス化と処理の自動化がなんでこんなに進んでないんだろう?そう思わない?」


そう言って、表情を曇らせた裕は


「これは明らかに、システム開発の方の問題だよ。開発部に問い合わせてくれないか?」


「かしこまりました。」


と、横にいたメンバ-に指示を与えると、彼はすぐに動き始めた。
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