ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
昼休憩に入っても、スタッフたちとあれこれと熱心に意見を交換していた裕は、午後に入っても、リーダ-として、何事もゆるがせにしないその動きは精力的だった。そんな彼の様子を、凪咲は側でじっと見ていた。


彼の言動からは、会社を良くしたい、その為に絶対にこのプロジェクトを絶対に結実させたいという、ほとばしるような情熱が感じられ、そこにはもう、再会してから、凪咲を失望させ続けて来たいい加減で軽薄な彼の姿はなかった。


(私は裕の秘書だけど、彼のフォロ-だけをしてればいいわけじゃない。こうして私を一緒に連れ歩いているのは、裕が私にも、このプロジェクトにおいて、なにがしの役割を期待してるんだろう。だとしたら、私がやれること、やらなきゃいけないことはなんだろう・・・?)


いつしかそんなことを考えている自分に気付いた凪咲は


(裕の役に立ちたい、裕の力になりたい。きっとプロジェクトのメンバ-のみなさんもそう思ってるに違いない。)


胸が熱くなるのを感じていた。


そして夕方、その日の業務を終え、オフィスに引き上げて来た他のチ-ムから、状況の報告を受けた裕は


「俺たちは業務改善の正解を持ってるわけじゃない。だから、現状を頭ごなしに否定するんじゃなく、相手の心理を慮り、その不安を取り除いていくことで、お互いが納得できる状況まで持っていくことが大切なんだ。」


「抵抗感や不安が強い場合は、いきなりプロセスを大きく変えることは見送り、小さなことから変更して行って、出来るところから少しずつ進めればいい。社長肝入りのプロジェクトとして、早く成果を出さなきゃと、俺たちが焦るのは、本末転倒になる。それを忘れないで行こう。」


と語り掛けると


「ということで、今日はここまでにしよう。また明日、よろしく。」


この日の業務を締め、席を立つと


「凪咲、行くぞ。」


声を掛けて、部屋を出る。


「お疲れ様でした。」


そう言って、裕を見送るメンバ-に一礼して、凪咲も慌てて、後に続いた。


そのまま執務室に入ったふたり。向き合った途端


「どうだ?今日1日、俺に付いてみて。」


「えっ?」


「ちゃんと真面目にやってただろう?」


そう言って、裕はニヤッと笑った。
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