ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「業務改善のパイオニアは、日本のトップ企業である、あの自動車メ-カ-だ。それ以来、幾多の企業が、それに倣い、『KAIZEN』とローマ字表記されて、海外でも通用する言葉になった。親父から、その改善をやれと言われてから、いろいろ勉強をして感じたのは、『先入観を排除する』ことの大切さだった。他社の釜の飯を食い、入社してからずっと海外にいた俺を、親父がこのプロジェクトのリーダ-に起用した理由がよくわかった。」


「・・・。」


「先入観を排した上で、ありのままの現状を知る。その為に俺が取った態度は、社内で随分顰蹙を買ったが、それは間違ってなかったと、今も思ってる。俺がどれだけ、このプロジェクトに本気か。凪咲も少しは理解してくれたか?」


そんなことを言って来た裕に


「それは伝わって来たよ。今日1日、あなたに付いていて・・・誠心誠意、秘書として、あなたをお支えしなければ、そう思いました。」


凪咲が答えると


「よかった。」


裕は思わず、ホッとしたように笑みを漏らすと


「凪咲、このプロジェクトは半年やそこらで終わるものじゃない。だから、お前にもずっと付き合ってもらう。そのつもりでいてくれ。いいな。」


と改めて念を押すように言った。それに対して


「こうしてお引き受けした以上は、途中で放り出すつもりはありません。私がお役に立てるなら、全力で務めさせてもらうと約束します。」


と答えた後


「だから・・・お願いだから、仕事中に私を凪咲と呼ぶのはもう止めて。」


訴えるように凪咲は言う。


「なんで?」


「なんでって・・・。今日、あなたが私を名前呼びする度に、社員のみなさんが微妙な空気になってたの、気が付かなかった?社内恋愛中の社員同士だって、仕事中に名前で呼び合うなんて、普通しないでしょ?それに、今日1日、あなたが私を1日連れ歩いたのも、ちゃんとした理由や目的があったんだって、今は私も理解してるけど、でも奇異な目で見られてたのは、当然裕も感じてたでしょ?とにかく、私たちはかつて同棲していた元恋人同士って、社内から誤解されてるんだから。」


「それならよかった。」


「えっ?」


「凪咲が俺のだって、社内に改めてアピ-ル出来たんなら、今日俺がお前を連れ歩いた最大の目的は、無事達成できたわけだ。」


そう言って、ニヤリと笑った裕に、凪咲は思わず、彼の顔を見つめて絶句してしまう。
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