ウソから出たマコト~ニセモノの愛から生まれたホンモノの恋~
「ということで、帰るぞ。」


そんな凪咲の様子に構うことなく、裕は言う。


「夕飯、ご馳走するよ。」


「えっ?」


「凪咲の着任祝いに、俺が腕によりを掛けたディナ-を振舞うよ。だから、これから俺のマンションに来てくれ。」


サラッと言われた裕の言葉に、凪咲は凝然となる。


「部屋から見える夜景が、結構きれいなんだぜ。凪咲に是非見せたいと思ってたんだ。」


「ちょっと、何言い出すのよ。」


「何が?」


「いくらなんでも、いきなり、あなたのお部屋に来いなんて言われて、行けるわけないでしょ!」


「なんで?」


「なんでって、そんなの当たり前じゃない!」


「半年も同じ屋根の下で暮らしてたのに、今更なに言ってんだよ?」


「それとこれとは話が別でしょ?」


「別じゃない。」


そう言い切った裕の顔を、思わず見つめる凪咲。


「安心しろよ。今、お前の前にいる男は、半年間、1つ屋根の下で一緒にいても、お前に手を出さなかった奴だぞ。」


「最後の最後に手を出そうとした。無理矢理、キスした。」


「でもその先は思い留まっただろ。」


「あの時、あなたは確かに私に好きだって言った。でも私はこう返したよね、『本気なら明日、酔ってない時にもう1度言って』って。そして、次の日、あなたは私に何も言わずに姿を消した。それがあなたの答えだって、私が思うのは当たり前のことでしょ!」


溢れ出そうになる涙を懸命に堪え、凪咲は睨むような視線を裕に向ける。そんな彼女を少し眺めていた裕はやがて


「凪咲の気持ちはよくわかった。」


と言って、1つ息を吐いた後、改めて凪咲を見た。


「だけど約束は守ってもらうぞ。」


「約束?」


「今日は着任初日だから、ずっと俺に付いてろ。片時も俺から離れるな、今朝、そう言ったはずだ。」


「それは、あくまで仕事中っていう意味じゃ・・・。」


「そんなこと、俺はひと言も言ってないぜ。」


「・・・。」


「だから辞退は認めない、行くぞ。」


そう言って、ニヤリと笑った裕が、出口に向かうと、言いたいことは当然あったが、何を言っても無駄だろうと諦めた凪咲は、1つため息を吐くと、後に続いた。
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